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タイ・カンボジア国境付近で再び緊張状態へ。撤去期限過ぎるもカンボジア側は応じず

タイ国旗とカンボジア国旗のエンブレムを付けた兵士が国境付近でにらみ合うイラスト。背後には撤去対象のテントが見える。AIでイメージを再現したアニメ調サムネイルです。
Thaim Line Bangkok

タイ・カンボジア国境付近で再び緊張状態へ。
撤去期限過ぎるもカンボジア側は応じず

2025年10月11日現在、タイ東部サケーオ県のアランヤプラテート郡などに接するタイ・カンボジア国境地帯で、両国軍がにらみ合う緊迫した状態が続いています。タイ軍が設定したカンボジア側の構造物撤去の最終期限が10月10日に過ぎましたが、カンボジア側はこれに応じていません。

なぜ今、両国の緊張はここまで高まっているのでしょうか。最新の状況と、その背景にある長年の問題を詳しく解説します。

何が起きているのか?サケーオ県での軍事対峙

今回の緊張の直接的な引き金は、サケーオ県の2つの係争地域(バーン・ノーンジャーン、バーン・ノーンヤーケーオ)に、カンボジア側がテントなどの構造物を設置し、住民が滞在を始めたことです。これに対し、タイ陸軍は「主権の侵害」であるとして、10月10日を期限とする撤去・退去の最後通告を出しました。

しかし、カンボジア側は期限を無視。これを受けてタイ軍は、実力行使は避けつつも部隊を増強して現場を完全に包囲。ドローンなどで24時間監視し、カンボジア側への物資補給路を事実上遮断するなど、強い圧力をかけています。

なぜ緊張は高まったのか?長年の領土問題と最近の摩擦

プレアヴィヒア寺院から続く国境未画定問題

今回の事件の根底には、100年以上にわたる国境未画定問題があります。特に2008年から2011年にかけては、世界遺産プレアヴィヒア寺院(ปราสาทเขาพระวิหาร)の領有権をめぐり、両国間で死傷者を出す大規模な軍事衝突に発展しました。その後、国際司法裁判所の判決などを経て沈静化しましたが、根本的な領土問題は未解決のまま、各地に火種として残っています。

2025年に入ってからも緊張は続き、7月には両軍が無条件停戦で合意したものの、9月には銃撃戦が発生するなど、散発的な衝突が繰り返されていました。

オンライン詐欺撲滅作戦が引き金か?

最近の緊張激化の背景として、タイ政府がカンボジアに拠点を置くオンライン詐欺グループの撲滅を強く要請したことがある、と分析するメディアもあります。この要請が両国間の外交関係を悪化させ、今回の領土問題の再燃に繋がった可能性が指摘されています。

両国の公式な立場

  • タイ側の立場:アナンティン首相は「自国の主権は一歩も譲らない」と断固とした姿勢を示す一方、あくまで外交交渉による平和的な解決を最優先する方針を強調しています。
  • カンボジア側の立場:「当該地域は国境未画定の係争地である」と主張し、タイ側の要求を拒否。先に挑発したのはタイ軍であると国際社会に訴えています。

まとめ:高まる緊張と、来週のハイレベル協議が焦点

国境紛争の長期化は、在住者や旅行者にも大きな影響を及ぼしています。日本の外務省は、カンボジアとの国境付近の広範囲(シーサケート県、スリン県など7県)に危険情報「レベル3:渡航は止めてください(渡航中止勧告)」を発出し続けています。これにより、スリンの象祭りといった人気イベントの開催も不透明な状態です。

さらに、SNS上では過激な投稿によって両国の国民感情が悪化しており、タイ国内の一部では軍事政権の再興を望む声すら高まっています。

この膠着状態を打開するため、両国政府は来週にも国防大臣クラスが出席する合同国境委員会(GBC)を開催することで合意しています。このハイレベルな協議の場で、緊張緩和に向けた具体的な合意ができるかどうかが目下の最大の焦点です。タイ軍は国境検問所を一部閉鎖するなど圧力を強めていますが、両国とも全面的な衝突は望んでおらず、外交交渉の行方が注視されます。

出典・参考サイト
  • Bangkok Post
  • The Nation Thailand
  • Thai PBS

この記事を書いた人

keita satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスの持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォロワー1700人)や複数のSNS(総フォロワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。

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タイムラインバンコク編集部は、バンコクに在住する経験豊富な編集者とライターからなる専門チームです。日本人メンバーだけでなく、日本語能力試験N1を持つタイ人メンバーも在籍しており、多様な視点から情報を捉えることを大切にしています。 インターネット上の情報だけでなく、実際に現地へ足を運び、独自の取材・調査を行うことを信条としています。グルメ、ビューティー、最新ニュースからカルチャーまで、バンコクで暮らす人、訪れる人にとって本当に価値のある、正確で信頼できる情報を厳選してお届けします。日本のメディアに情報提供することもあります。
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