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タイ銀砲発射か?バーツ急騰にタイ中央銀行(BOT)が「介入明言」

タイ中央銀行のような建物の上に、砲身が複数ある巨大な大砲が設置され、派手な爆発を起こしているイラスト。空には雲が広がり、人々がそれを見上げている。上部には「タイ銀砲発車か?止まらぬバーツ急騰にタイ中央銀行介入明言」のテキスト。
Thaim Line Bangkok

2025年9月に入り、タイバーツは対米ドルで一時31.5バーツ台、年初来で約8%高と、約4年ぶりの高値水準にまで急騰しました。この急激なバーツ高に対し、タイ中央銀行(BOT)は沈黙を破り、「介入した」と明確に市場に表明。まるで日銀砲を思わせる「タイ銀砲」発動か? BOTが直面する綱渡りの金融政策と、その背景にあるタイ経済の課題に迫ります。

タイバーツ急騰の現状と背景

タイバーツは、米国の利下げ観測、タイの政情安定化による海外からの資本流入、堅調な経常収支黒字、そして金取引の活発化といった複数の要因が重なり、強い買い圧力が生じています。特に最近では対米ドルで31.5バーツ台をつけ、年初からの上昇率は約8%に達するなど、急激な動きを見せています。

タイ中央銀行(BOT)が「介入明言」

この急激なバーツ高に対し、タイ中央銀行は強い警戒感を示しています。セタプット・スティワートナラプット総裁は、9月21日の記者会見で、「現在のバーツ高は、タイ経済のファンダメンタルズを反映したものではない」と明確に述べました。

  • BOTの懸念: 総裁は、急激なバーツ高がタイ経済の主要エンジンである輸出企業の競争力を削ぎ、収益を圧迫していること、また、観光業の回復にも悪影響を及ぼす可能性があることに強い懸念を表明。
  • 「介入」の明確化: さらに、BOT幹部が9月19日には「バーツが速く動きすぎないよう管理するため介入した」と明言。これは、市場でバーツを売り、米ドルなどの外貨を買う為替介入が実際に行われたことを示すものです。介入の目的は、バーツを特定の水準まで下げることではなく、あくまで上昇のスピードが速すぎること(過度な変動)を抑制し、企業が為替変動に対応する時間を与えることにあります。

検討される追加対策とBOTが抱えるジレンマ

BOTは、バーツ高抑制に向けた追加策も検討しています。特に注目されるのが、金(ゴールド)取引に関する規制です。

  • 金取引への課税検討: 金取引の活発化がバーツ買いに繋がっているとの見方から、金取引への課税を含むパッケージが検討されています(ただし、政策判断が必要なため即時導入ではありません)。
  • 金取引のUSD建て化促進: バーツとの相関を弱めるため、金取引の米ドル建て決済を促進する動きもあります。

しかし、BOTは難しいジレンマに直面しています。大規模な介入を続ければ、米国財務省から「為替操作国」に認定されるリスクがあり、貿易面で不利益を被る可能性があります。また、為替を抑制するための大幅な利下げは、国内の物価安定という中央銀行本来の使命と衝突し、インフレを再燃させるリスクも抱えています。

直近のタイムラインと今後の見通し

直近の動向は以下の通りです。

  • 9月8日: BOT、バーツ主導の上昇に対し安定化へ介入姿勢を示唆。
  • 9月16日: セタプット総裁、金取引課税やUSD建て化を「検討」と発言。
  • 9月18日: タイ政府、BOTと連携してバーツ高に対処すると表明。
  • 9月19日: BOT幹部、「介入した」と明言。対米ドルで約31.87バーツ、年初来+約8%。

今後の焦点は、10月8日に予定されている金融政策決定会合です。市場では利下げ継続観測も根強く、BOTがバーツ高抑制と物価安定という二つの目標をどのようにバランスさせるのか、その舵取りに注目が集まります。

まとめ

タイ中央銀行は、急激なバーツ高に対し「口先介入」と「実弾介入」の両面で対応を強化しています。その背景には、輸出や観光といった主要産業への深刻な影響への懸念があります。

しかし、「実弾介入」には限界もあります。例えば、日本の外貨準備高が約1.2兆ドル(2024年8月末時点)であるのに対し、タイの外貨準備高は約2,500億ドル(同時期)と、規模には大きな差があります。この差は、バーツ高に対して無尽蔵に介入できるわけではないことを示唆しています。日銀砲がその潤沢な外貨準備を背景に強力な効果を発揮してきたのとは異なり、BOTはより慎重な資源配分を迫られます。

為替操作国認定のリスクや金融政策(物価安定)との兼ね合いなど、BOTの選択肢は限られており、非常に難しい局面を迎えています。今後の市場の動向、そして10月8日の金融政策決定会合でBOTがどのような舵取りを見せるのか、目が離せません。

出典・参照元:

この記事を書いた人

keitasatou:タイムラインバンコク編集者
バンコク在住10年以上ライター、バンコクで複数のSNSを運用しておりフォロワー総数は7万人以上。ライターという特殊な職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。https://www.facebook.com/thaimlinebkk

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タイムラインバンコク編集部は、バンコクに在住する経験豊富な編集者とライターからなる専門チームです。日本人メンバーだけでなく、日本語能力試験N1を持つタイ人メンバーも在籍しており、多様な視点から情報を捉えることを大切にしています。 インターネット上の情報だけでなく、実際に現地へ足を運び、独自の取材・調査を行うことを信条としています。グルメ、ビューティー、最新ニュースからカルチャーまで、バンコクで暮らす人、訪れる人にとって本当に価値のある、正確で信頼できる情報を厳選してお届けします。日本のメディアに情報提供することもあります。
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