タイの観光客数が【今年2000万人を突破!】も日本をライバル視する理由
観光先進国のタイが、目覚ましい観光産業の回復を見せています。今年に入り、外国人観光客数はついに2000万人を突破しました。街には活気が戻り、多くの観光客で賑わう様子は、コロナ禍以前の姿を取り戻しつつあります。
しかし、この喜ばしいV字回復ニュースの裏では、タイの観光業が素直に喜べない事情があります。そこには新たなライバルである日本とベトナムの存在があるからです。
数字で見る回復:観光客数2000万人突破の光と影
タイ観光スポーツ省の発表が示すのは、2025年8月26日時点で外国人観光客数が2000万人を突破したという力強い回復です。コロナ禍で大打撃を受けた観光産業にとって、このV字回復は大きな希望を与えています。しかし、楽観視ばかりはできません。ピーク時の勢いには及ばず、回復のペースが鈍化しているという懸念も浮上しています。

グラフを見ると、2019年のピーク時には約4000万人の外国人観光客がタイを訪れていましたが、2020年以降は国境封鎖などの影響で激減。しかし、2022年以降は回復基調に乗り、現在に至るまで急激なV字回復を見せていることがわかります。
観光客の回復した理由
- 入国規制の大幅な緩和: コロナ禍の終息に伴い、ワクチン接種証明の義務撤廃や、入国書類の簡素化といった措置が多くの旅行者を呼び戻しました。
- 積極的なプロモーション活動: タイ政府観光庁(TAT)が「タイの今」を国内外にアピールする積極的なプロモーションを展開し、回復を後押ししました。
- 新たな商業施設のオープン: 各地で新しい商業施設やアトラクションがオープンし、観光客にとっての新たな魅力となりました。
- 観光客への影響:多くの店舗の再開、夜の賑わいの復活。
観光客の回復が鈍化した理由
- タイバーツの高騰: タイバーツが円や一部のアジア通貨に対して高止まりしているため、タイ旅行の割高感が強まっています。これにより、特に予算を重視する旅行者にとって、旅行のハードルが上がっています。
- 中国人観光客のタイ離れ: かつてタイのインバウンドを牽引していた中国人観光客が、国内旅行や近隣国へ旅行先をシフトする傾向が見られます。これは、タイの観光地での不当請求や犯罪といったネガティブな報道が影響している可能性も指摘されています。
- 政情不安: デモや政治的な対立が報じられると、観光客は治安への懸念から旅行をためらう傾向があります。今年に入り地震報道や近隣国との国境紛争、首相の交代といったニュースが海外で大きく報じられ、特に家族連れや団体旅行客の減少に繋がっています。
- インフレの進行: 観光客の増加に伴い、タイ国内でも物価やサービス料金が上昇。ホテルや交通費、レストランなどの価格が、旅行者の予算に影響を与えています。
素直に喜べないV字回復の理由
日本とベトナムを「ライバル視」する政府
では、なぜタイ政府は、観光客数で大きく差をつけている日本やベトナムをライバルとして意識するのでしょうか?その背景には、単なる観光客数の多寡だけではない、より深い戦略的な意図があります。
日本の動向:円安を追い風にしたインバウンドの脅威
近年、急速な円安が進んでいる日本は、外国人観光客にとって非常に魅力的な旅行先となっています。日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2025年7月までの訪日外客数は累計で2151万人を超え、過去最高を記録する勢いです。特に、かつては多くのタイ人が日本を訪れていましたが、円安によってさらにその流れが加速しています。タイからの訪日観光客数も大幅に増加しており、2025年上半期(1月~6月)の累計では約68万人に達しました。高品質な日本の製品や食文化、四季折々の美しい風景は、タイ人観光客にとって依然として大きな魅力であり、タイ政府としては、自国の観光客が日本に流出する傾向を強く警戒しているのです。また、日本政府は観光立国を目指し、インバウンド誘致を積極的に推進しており、その戦略的な動きもタイ政府の警戒感を高める要因となっています。
ベトナムの台頭:新たな観光大国としてのポテンシャル
一方、ベトナムは近年、観光インフラの整備に力を入れており、外国人観光客誘致において目覚ましい成長を遂げています。ベトナム統計総局によると、2025年上半期(1月〜6月)にベトナムを訪れた外国人観光客数は1,066万5千人に達しました。これは、パンデミック前の2019年上半期と比較しても25.7%の増加となっており、観光産業が力強く回復していることが伺えます。特に、歴史的な建造物や美しい自然、そして比較的安価な物価は、欧米やアジアの観光客にとって魅力的な要素となっています。タイ政府は、ベトナムが新たな観光大国として台頭し、東南アジアの観光客を取り合う可能性を認識しているのです。
タイ政府の新たな戦略:「量より質」への転換
このような状況を踏まえ、タイ政府は従来の「観光客数の増加」を重視する戦略から、「質の高い観光」へとシフトしようとしています。具体的には、富裕層や長期滞在者、医療ツーリズムなどの高付加価値層の誘致に力を入れています。また、バンコクや主要観光地だけでなく、地方の魅力を発掘し、新たな観光ルートを開発することで、観光客の分散化を図ろうとしています。
旅行者・在住者への影響:変化の中で賢く行動するために
タイの観光戦略の変化は、旅行者や在住者にとっても様々な影響をもたらします。
旅行者への影響
今後、より多様な旅行体験が提供される可能性があります。富裕層向けの高級ホテルやスパ、地方の文化や自然に触れるツアーなど、これまで以上に質の高いサービスが登場することが期待されます。一方で、人気観光地では引き続き混雑が予想されるため、旅行の計画を立てる際には、オフシーズンを狙ったり、早朝や夕方の比較的空いている時間帯を選んだりするなどの工夫が必要となるでしょう。また、観光客向けの価格設定が多様化する可能性もあるため、事前にしっかりと情報を収集し、賢く選択することが重要になります。
在住者への影響
観光客の増加による経済効果への期待が高まる一方で、生活環境の変化に注意を払う必要があります。交通渋滞の緩和策や、物価上昇への対策などが求められるでしょう。また、外国人観光客とのコミュニケーション機会が増えることで、語学力の向上や異文化理解の促進といったメリットも期待できます。
まとめ:より良い観光体験のために
タイの観光産業は、2000万人という大きな節目を迎えましたが、その道のりは決して平坦ではありません。国際的な競争は激化しており、タイ政府は新たな戦略を打ち出し、持続可能な観光の実現を目指しています。
タイを訪れる旅行者は、混雑を避け、現地の文化や自然を尊重する姿勢が大切です。また、不当な価格請求や悪質な客引きには十分に注意し、何かトラブルに巻き込まれた際には、観光警察(Tourist Police 1155)に迷わず連絡しましょう。
在住者は、観光客の増加を地域経済活性化のチャンスと捉え、共存共栄の道を探ることが重要です。外国人との交流を通じて、新たな視点や価値観を取り入れることもできるでしょう。
タイは、観光業においては先進国として、観光客誘致のために積極的な制度改革を進めています。無料の国内航空券提供や、カジノ合法化への動き、さらに同性婚の容認や大麻解禁といった大胆な政策は、日本だけでなく、中東を含めた多様な市場を意識していることの表れです。
今後は、単なる観光客数の「量」だけでなく、高付加価値層を取り込む「質」を重視する方針がより一層明確になるでしょう。インバウンド需要のさらなる拡大を目指す日本にとっても、タイのこうした多角的な観光戦略や大胆な制度改革は、学ぶべき点が多いかもしれません。
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出典・参考資料
日本政府観光局(JNTO) 訪日外客数(2025年7月速報値)
https://www.jnto.go.jp/
タイ観光スポーツ省 2025年の観光統計データ
https://www.mots.go.th/
ベトナム統計総局 2025年上半期の外国人観光客統計
https://www.gso.gov.vn/

