MENU

タイ政府が「入国料300B」導入を急ぐ なぜ外国人観光客数が激減する今なのか

「タイ政府が導入を急ぐ入国料300B」というテキストと、タイの空港でワット・アルンを眺めながら物思いにふける観光客のイラスト。
keita satou

観光客激減の最中になぜ?タイ新政権が『外国人入国料300B』導入を急ぐ裏事情

2025年9月、タイの外国人観光客数は前年比11%減という厳しい結果に終わりました。急激なバーツ高と主要市場である中国人観光客の激減が主な原因です。多くの観光事業者が悲鳴を上げる中、タイの新政権は、以前から議論されていた「外国人入国料300バーツ」の導入を本格化させると発表し、波紋を広げています。

観光客が減っているタイミングで、なぜさらなる客足の減少に繋がりかねない施策を急ぐのでしょうか。本記事では、最新の観光データと政府の動きを基に、バンコク在住10年の筆者がその背景にある政府の“痛し痒し”の事情を深掘りします。

衝撃のデータが示すタイ観光の「ダブルパンチ」

まず、タイ観光がいかに厳しい状況にあるか、観光・スポーツ省が発表した最新の公式データを見てみましょう。

① 急ブレーキがかかった9月の観光客数

  • 9月単月の外国人観光客数: 238万3,865人
  • 前年同月比: 11.23%の減少
  • パンデミック前比: 18.42%の減少

特に深刻なのが、9月にアジア最強通貨とまで言われた急激なバーツ高です。これにより旅行先としての価格競争力が低下。さらに、国慶節の連休を前にした旅行控えに加え、安全イメージへの懸念から中国人観光客は前年同月比で約40%という壊滅的な減少を記録しました。
(出典:The Nation Thailand

② 年初来の累計でも続くマイナス成長

  • 累計外国人観光客数 (1〜9月): 2,411万5,328人
  • 前年同期比: 7.56%の減少
  • 同期間の観光収入: 1兆1,137億バーツ (5.85%の減少)

年初からの9ヶ月間で見ても、観光客数・収入ともに前年割れの状況が続いています。通年の目標も下方修正され、厳しい見通しが立っています。
(出典:Bangkok Post

逆風下で再燃する「入国料300バーツ」計画

この厳しい状況の最中、本日10月6日、アタコーン新観光・スポーツ大臣は「政権発足後4ヶ月以内の実施を目指す」として、外国人から300バーツ(約1,200円)を徴収する計画を本格化させると明言しました。

政府は、徴収した資金を「観光客用の医療保険」や「観光地のインフラ整備」に充てることで、最終的に観光客の利益に繋がる制度だと強調しています。しかし、ホテル協会などは「ただでさえ客足が遠のいているのに、冷や水を浴びせる行為だ」と猛反発しています。

なぜ最悪のタイミングで導入を急ぐのか?考えられる3つの理由

観光業界の反発は必至。それでも新政権がこの計画を推し進めようとする背景には、単なる増収目的だけではない、いくつかの切実な事情が透けて見えます。

理由1:医療費の“踏み倒し”問題と新たな財源確保

長年タイでは、保険未加入の観光客が事故や病気で高額な医療費を支払えず、公立病院が負担を強いられるケースが問題視されてきました。入国料を保険料に充てることで、この長年の課題を解決し、安定した財源を確保したいという狙いが第一にあると考えられます。

理由2:「安かろう悪かろう」からの脱却。「観光の質」への転換

バーツ高で、価格の安さだけを売りにした観光モデルは限界に達しつつあります。政権としては、このタイミングを逆手に取り、安さを求める客層から、多少の負担は気にしない富裕層や長期滞在者へとターゲットをシフトしたいのかもしれません。整備されたインフラや手厚い保険は、結果的に「質の高い観光」をアピールする材料になります。

理由3:新政権の「実行力」のアピール

この入国料計画は、実は前政権時代から何度も浮上しては頓挫してきた経緯があります。観光業界という巨大な業界の反発を押し切ってでもこれを実現できれば、アナンティン新内閣の「実行力」や「改革姿勢」を国民に示す格好のパフォーマンスとなり得ます。

まとめ:タイ観光は重大な岐路に

観光客が減少する中での入国料徴収は、短期的にはさらなる観光客離れを招く「諸刃の剣」であることは間違いありません。

加えて、バンコクなどの都市部では少子高齢化による人材不足が深刻化し、賃金も上昇しています。急激なバーツ高も相まって、もはやタイは「安い国」とは言えなくなりつつあり、実際にネット上では『今のタイは全然安くない』といった観光客の声も目立ち始めています。

こうした構造的な問題を背景に、政府としても「安さ」に依存した従来の観光モデルからの脱却は急務です。だからこそ、財源確保や観光の質的転換といった目的が、この入国料計画の裏には透けて見えるのです。

この“劇薬”とも言える政策が、タイの観光業を再生させる一手となるのか、それとも致命傷を与えることになるのか。新政権の手腕が今、まさに問われています。

この記事を書いた人

keita satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスの持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォロワー1700人)や複数のSNS(総フォロワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。

著者のプロフィール詳細はこちら

関連記事

about me
Keita Satou
Keita Satou
タイ在住ライター
タイ在住ライター バンコク在住10年以上。旅行ライセンスの持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォロワー1700人)や複数のSNS(総フォロワー7万人以上)を運営する。日本のテレビ・メディア取材経験多数あり。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
記事URLをコピーしました