MENU

タイで猛威の外来種、日本の技術で救う試み

タイで猛威を振るう外来種を日本の養殖技術で救う試み
Thaim Line Bangkok

ある養殖地域で3000万匹も生息する 驚異の外来種

「ブラックチン・ティラピア」

ブラックチンティラピアは、アフリカ西部に原産するティラピアの仲間で、特に成魚の下顎が黒いのが特徴です。英名の「Blackchin tilapia」もこれに由来し、食用目的で移入されたアジアやアメリカ、ヨーロッパなどで侵略的外来種となり、生態系に大きな影響を与えています。夜行性で、淡水から海水まで様々な環境に適応し、特にタイでは在来種を捕食するなど、在来種の生態系や漁業に深刻な影響を与えていることが「悪魔の魚」とも呼ばれる所以です。
出展:https://bkktribune.com/
西アフリカを原産とする外来種「ブラックチン・ティラピア」が、タイの生態系を破壊する深刻な問題となっています。この魚は非常に強い繁殖力と適応能力を持ち、在来種を捕食することで、タイの漁業と環境に大きな打撃を与えています。現地では悪魔の魚と呼ぶ人も。

タイで猛威を振るうブラックチン・ティラピア

ブラックチン・ティラピアは、タイの河川や沼で急速に生息域を拡大しています。在来の魚類やその卵、水生生物などを捕食するため、生態系のバランスを破壊し、生物多様性を脅かしています。特に、漁業資源となる在来種が減少することで、地域の漁業関係者にも経済的な打撃を与えています。

2017年の調査では、サムットソンクラーム県の養殖地域で3000万匹が生息し、最大で3億5000万バーツ(約10億円)の経済的損失を与えたと報じられています。

タイ政府の対策と日本の協力

タイ政府の対策

タイ政府は事態を重く見ており、水産局が中心となってさまざまな対策を講じています。駆除キャンペーンの実施や、効率的な捕獲のための専用漁具の開発、そして捕獲したティラピアの食用・肥料への利活用を推進しています。また、2021年からは、ブラックチン・ティラピアを含む13種の外来種の飼育・繁殖を禁止する法的規制も導入しました。

日本の協力

日本の大学とJICAの共同プロジェクト
東京海洋大学 廣野育生教授
出展:https://www3.nhk.or.jp/

日本の大学がJICA(=国際協力機構)と共同でプロジェクトを開始しています。
東京海洋大学 廣野育生教授(責任者)
「それぞれの国にいる原産のネイティブな魚介類を養殖すると、それが逃げたところで、もう自然界にはすでにいるわけなので、それが脅威になるということは外来種と比べた場合には低い」出展:https://www3.nhk.or.jp/


日本は直接的な駆除活動ではなく、「在来種の養殖技術を向上させて、経済的な価値を高める」というアプローチで協力をしています。これは、非常に日本らしい、持続可能な考え方と言えます。
  • 在来種の価値向上: 在来種の養殖が盛んになることで、経済的な価値が高まり、生態系を守る意識の向上につながります。
  • 外来種への依存低減: 養殖業が安定した在来種にシフトすることで、新たな外来種の導入リスクを減らします。

在来種バナナエビの養殖

この状況を打開するため、日本とタイは国際協力の枠組みでバナナエビの養殖技術開発を進めています。
出展:https://www3.nhk.or.jp/
バナナエビ(Banana prawn / Fenneropenaeus merguiensis)です。タイの在来種でで、消費者からの人気は高いものの、これまで市場に出回るものの多くは天然漁獲に頼っており、安定供給が難しい状況でした。
養殖技術が確立されていなかったため、商業ベースでの生産は限定的でした。
日本とタイは国際協力の枠組みでバナナエビの養殖技術開発を進めています。

JICA(国際協力機構)と廣野教授をはじめとする日本の大学・研究機関は、タイの研究機関と共同で「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」の一環として、バナナエビとアジアスズキの完全養殖技術の確立を目指すプロジェクトを実施しています。
  • 優れた親エビの選抜(分子育種): 病気に強く、成長が早い優良な系統を選び出し、遺伝子情報を活用して効率的に育種する技術を開発しています。
  • 病気への対策: エビの養殖で大きな被害をもたらす感染症を防ぐため、病原体の特定や防除技術の研究を進めています。
  • 専用飼料の開発: 稚エビから親エビまで、成長段階に応じた最適な栄養を持つ専用の配合飼料を開発しています。これにより、天然資源への依存を減らし、コストを抑えることを目指します。
  • 養殖技術のパッケージ化: 開発した技術をタイ国内の養殖農家が導入しやすいように、一連の養殖マニュアルとして体系化しています。

外来種の養殖をやめて、在来種の養殖を盛んにすれば生態系が壊されることがないという発想と試みでタイ政府も同意しています。

まとめ
今回の日本の協力は、駆除という直接的なアプローチではなく、タイの持続可能な水産業の基盤を強化するという形で、生態系全体の保全を支援しています。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、非常に重要な取り組みです。

タイの漁業関係者の生活を守りながら、生態系全体のバランスを回復させるという、長期的な視点に立った解決策が注目されています。

関連記事

出展:

この記事を書いた人

keitasatou:タイムラインバンコク編集者
バンコク在住10年以上ライター、バンコクで複数のSNSを運用しておりフォロワー総数は7万人以上。ライターという特殊な職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。Facebook
about me
タイムラインバンコク編集部
タイムラインバンコク編集部
ライター
タイムラインバンコク編集部は、バンコクに在住する経験豊富な編集者とライターからなる専門チームです。日本人メンバーだけでなく、日本語能力試験N1を持つタイ人メンバーも在籍しており、多様な視点から情報を捉えることを大切にしています。 インターネット上の情報だけでなく、実際に現地へ足を運び、独自の取材・調査を行うことを信条としています。グルメ、ビューティー、最新ニュースからカルチャーまで、バンコクで暮らす人、訪れる人にとって本当に価値のある、正確で信頼できる情報を厳選してお届けします。日本のメディアに情報提供することもあります。
記事URLをコピーしました