【タイの徳政令】タイ政府の債務救済策「クリア・ニー」10万バーツ以下の免除条件と住宅ローンの利息停止について解説
2025年11月18日、タイ政府は閣議において、大規模な債務救済策(いわゆる※徳政令)を正式に決定しました。
現地メディアでは「借金10万バーツ以下の救済」という見出しが躍っていますが、実はこの政策、日本人居住者にも関係する「住宅ローン・自動車ローンの3年間利息停止」という強力な措置が含まれていることをご存知でしょうか。
正式名称「クローンガーン・クリア・ニー・ドゥーン・ナー・トー(借金を整理して前へ進もう)」と名付けられたこのプロジェクトの全貌と、私たちが受ける恩恵・影響について解説します。
※徳政令:中世の日本において、幕府や大名が発令した、借金や売買・質入れの契約を帳消しにする法令です。主に武士の救済を目的として発令され、御家人などが売却・質入れした所領を元の持ち主に無償で返還させ、借金を帳消しにしました。
タイ版徳政令「クリア・ニー」プロジェクトとは?
今回の政策は、タイの家計債務比率がGDP比91.3%(2025年Q3)という危険水域に達したことを受け、政府と金融機関が共同で打ち出したものです。
- 正式名称:
โครงการเคลียร์หนี้ เดินหน้าต่อ
(読み:クローンガーン・クリア・ニー・ドゥーン・ナー・トー) - 意味:
借金を整理して、前へ進み続けよう(Clear Debt, Move Forward) - 開始時期:
2026年1月予定
対象者は大きく「2つのグループ」に分かれます。報道で目立つ「借金帳消し」はグループ1の話ですが、私たちに関係が深いのはグループ2です。
グループ1:10万バーツ以下の「借金救済」
すでに返済不能(NPL)に陥っている小口債務者が対象です。
約340万人が該当すると見られています。
- 条件:
借入総額が10万バーツ以下で、1年以上延滞しているものなど。 - 措置内容:
利息・延滞金の全額免除。元本のみ返済すれば、ブラックリスト(信用情報機関の記録)から即座に削除され、再出発が可能になります。
グループ2:住宅・車の「3年間利息停止」
ここが日本人居住者や、コンドミニアム・車を所有する中間層にとっての重要ポイントです。不良債権化していなくても、返済負担の軽減措置が受けられます。
対象となるローン残高
- 住宅ローン:元本500万バーツ以下
- 自動車ローン:元本80万バーツ以下
- SME(中小企業):元本300万バーツ以下
驚きの優遇措置
条件を満たし、元本返済を継続することを約束すれば、「3年間の利息支払い停止(พักดอกเบี้ย 3 ปี)」が適用されます。毎月の支払額が大幅に下がるため、家計のキャッシュフロー改善に直結します。
まとめ
ルッタポン・ナワラット財務大臣は「このプロジェクトは、小規模債務者の人生を再び前へ進めるための鍵となる」と述べています。単なるバラマキではなく、国家レベルでの「バランスシート調整」と言えるでしょう。
このニュースは在住日本人にとっても2つの意味でチャンスです。
- パートナーの財務整理:
もしタイ人のパートナーや家族に昔のカードローンの延滞(ブラックリスト入り)があるなら、2026年は信用情報をクリーンにする絶好の機会です。「怒らないから確認してみて」と切り出してみましょう。 - 住宅ローンの見直し:
500万バーツ以下のコンドミニアムをローンで購入している場合、この施策を利用して銀行と「3年間の利息停止」を交渉できる可能性があります。
「徳政令」と聞くとモラルハザードが懸念されますが、タイ社会特有の「セーフティネット(やり直し機能)」として賢く活用・理解するのが良いでしょう。
日本人と比較して貯蓄率が低く、まさに徳政令時の江戸っ子のごとく宵越しの金は持たない主義の人が多いイメージのタイ国民。日本の歴史でも過去に何度も行われてきた実情もあります。このような大胆な政策の影響は格差の拡大する日本にとっても参考になるデータが取れる可能性もあります。
この記事の出典
本記事は以下の現地報道および公式発表を基に作成しました。
- The Nation Thailand
- Bangkok Post
- Yahoo!ニュース
この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
タイムラインバンコク編集部
Facebook(keita satou)
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