S&P タイの格付け「BBB+」据え置き。観光客減もEECインフラ投資と経常黒字を評価
2025年11月14日、大手格付け機関S&Pグローバル・レーティングは、タイのソブリン信用格付けを「BBB+」、格付け見通しを「安定的(Stable Outlook)」で据え置くと発表しました。タイ財務省(PDMO)もこの決定を歓迎する声明を発表しています。
タイ経済の柱である観光業において「観光客が前年比7.6%減少」するという懸念材料がありながらも、なぜ格付けが維持されたのか。S&Pが評価したタイ経済の「強み」について詳しく解説します。
懸念材料:外国人観光客は7.6%減少
S&Pの分析において、最大の懸念材料として取り扱われたのが観光業の落ち込みです。2025年の最初の9か月間(1月〜9月)における外国人観光客の到着数は2,410万人となり、前年同期比で7.6%減少しました。
この背景には、ベトナムやマレーシアなど近隣諸国との競争激化や、一部での安全性への懸念が指摘されています。
なぜ格付けは維持されたのか? S&Pが評価した「強み」
この逆風下でも格付けが「安定的」と維持された理由は、S&Pがタイ経済の長期的な強みを高く評価したためです。主に以下の2点が挙げられます。
1. 強力な公共投資(EECとインフラ)
S&Pは、タイ政府による東部経済回廊(EEC)および主要な交通インフラ(道路、鉄道、港湾)への継続的な投資を、経済の「主要な強み」として高く評価しています。
2024年下半期以降、これらの公共投資は力強く成長していると指摘。また、国営企業(SOE)や官民パートナーシップ(PPP)を活用することで、政府の財政負担を軽減しつつ開発を推進している点もポジティブに評価されました。
2. 強固な対外健全性(経常黒字と外貨準備)
タイは、国外との経済取引において非常に安定した基盤を持っていると分析されています。S&Pは、タイが2028年まで平均してGDP比2.5%の経常収支黒字が続くと予測しており、高水準の外貨準備高を維持している点も、対外的なショックに対する耐性が強い証拠として評価されました。
※最新のタイの外貨準備高(国際準備高)は約2,162億ドル~2,730億ドル(2025年2月、10月ベース)と世界的にも高水準です。
- 2025年2月時点:2,167億ドル(CEIC/Bank of Thailand)
- 2025年9~10月時点:2,732億ドル(Trading Economics/最大値)
この金額は「輸入7.9ヶ月分をカバー」できる安定ラインであり、
経常収支(黒字)は今後2028年まで平均GDP比2.5%(約130~140億ドル規模)が持続する見通しです。
S&Pの分析と他機関との比較
S&Pは、今回の観光客の減少を「短期的な問題」と判断しています。政府による安全対策の強化や新たな観光インセンティブ(特典)により、2026年以降も観光業は重要な成長ドライバーであり続けると予測しています。(2025年のGDP成長予測は2.8%)
一方で、フィッチ(Fitch Ratings)など他の格付け機関は、タイの政治的な不確実性を懸念し、S&Pよりも低い成長率(2%前後)を予測するなど、より慎重な見方を示していることも事実です。
S&P他の主な格付け
- AAA:ドイツ、スイス、ルクセンブルク、オーストラリア、デンマーク、ノルウェー、シンガポール、カナダ
最高位。信用リスクほぼゼロ。 - AA+:米国
極めて信用力が高い(ほぼ最高) - AA:英国、韓国、ベルギー、スウェーデン
非常に信用力が高い - A+:日本、中国、スペイン、フランス
信用力は十分高いが、上位層からは一歩下がる - BBB+:タイ、イタリア
投資適格級の下位。信用力は安定だが、一部リスクの可能性あり - BBB:インド・ポルトガル
投資適格級ギリギリ - BBB-:インドネシア・ハンガリー
投資適格最低ライン - BB+:フィリピン
やや信用不安あり - BB:ベトナム
信用リスク高め
等最終的に下記まであります
| B- | きわめて高リスク | チュニジア |
| CCC | ほぼデフォルト水準 | アルゼンチン |
| CC | デフォルト直前 | |
| SD/D | デフォルト、債務不履行 | ロシア |
まとめ
S&P格付けとは、スタンダード&プアーズ社が国や企業の信用力(債務返済能力)を表す記号。信用度が高い順にAAA~Dまであり、資金調達や投資判断などの国際基準となります。
S&Pの今回の評価は、「観光業の短期的な落ち込み」という懸念材料よりも、「EECインフラ投資」と「経常黒字」という長期的な強みが上回っているという判断を示したものです。また外貨準備高も評価対象で、タイ経済はマクロ的な安定性は高いものの、構造的な成長力の鈍さも浮き彫りになった形と言えます。
この記事の出典
- The Nation Thailand
- Kaohoon International
- Bangkok Post
- Reuters
- タイ財務省 公共債務管理事務所(PDMO)
この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
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