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タイ 銃保有率が6〜7人に1丁の統計 首相が銃規制の大幅強化を検討 日本人にわかりにくい銃の法律について解説

銃を携行する人々を描いたモノクロのイメージ画像
keita satou

2026年8月7日、ノンタブリー県の学校で発生した銃撃事件を受け、タイ政府が銃規制の大幅な見直しに乗り出しています。アヌティン首相は8月11日、銃の購入・所持・携帯に関する許可制度を厳格化する方針を表明しました。

タイの銃に関する制度は、「買う許可」「持つ許可」「携帯する許可」がそれぞれ別に存在するという、日本人には分かりにくい仕組みになっています。今回は、今の流れ、従来の制度、改正の検討内容、そして日本の銃刀法との違いを順番に整理します。

今の流れ:何が起きているのか

8月7日にノンタブリー県のデープシリン・ノンタブリー校で発生した銃撃事件を受け、アヌティン首相は8月11日、一般市民による銃の公共空間への持ち出しを厳しく取り締まる方針を表明しました。あわせて、銃購入・所持・携帯に関連する許可制度の見直しと、内務省・警察による銃・薬物重点検問の強化を指示しています。

ただし、首相の発言には「現在の法律」「すでに実施された行政措置」「今後改正したい法律」が混在しており、これらを分けて理解する必要があります。「もう新法が施行された」という理解は、現時点では正確ではありません。

2026年8月13日時点で確認できる状況は次の通りです。

  • Por 3(銃購入許可):全国で新規発行を一時停止
  • Por 4(銃の所持・使用許可):既存登録銃が一斉に無効になったわけではなく、制度見直しの対象
  • Por 12(銃携帯許可):新規発行はすでに2026年2月から1年間停止中
  • 公共の場所への銃携帯:以前から原則禁止、現在さらに厳格に取り締まり
  • 既存の合法銃:原則として自宅等で保管するよう強く求める方針
  • 福利厚生銃制度:新規案件を一時停止する方向
  • 銃許可の期限:現行のPor 4は基本的に期限なし。3年更新制などを検討中(未確定)
  • 銃の売買・移転:リアルタイム登録・追跡システムを検討
  • 新しい銃器法:まだ成立していない

特に8月13日、地方行政局(DOPA)の局長は、Por 3について中央データベース側から全国の発行手続きを一時停止していると説明しました。単なる首相の発言にとどまらず、行政実務に反映されたことが確認できます。

タイと日本の銃規制を比較し、タイのPor 3・Por 4・Por 12による購入・所持・携帯許可と、日本の銃所持原則禁止・猟銃などの例外許可を解説するインフォグラフィック
2026年8月13日時点のタイと日本の銃規制を比較

従来のタイの銃所持ライセンス・法律

タイでは「銃の許可証」が一枚あるわけではなく、購入から携帯まで、段階ごとに異なる許可が必要です。

Por 3(ป.3):「買っていい」という許可

まず銃を購入する前に必要になるのがPor 3です。「この人が、この銃を購入することを認めます」という購入許可にあたります。銃を購入した後、その銃を正式に自分の所有銃として登録し、Por 4へ進む流れです。

Por 4(ป.4):「この銃を持って使ってよい」という許可

Por 4は、特定の銃を所有・使用するための許可です。ここで重要なのは、Por 4を持っているからといって、「拳銃を身につけて街を歩いていい」わけではないということです。タイ政府も、Por 4を持っていても、公共の場所へ銃を自由に携帯する権利はないと明確に説明しています。

これまでのPor 4には原則として明確な有効期限がなく、一度正式に登録された銃について、所有者の資格を定期的に再審査する仕組みが弱いことが問題視されてきました。

Por 12(ป.12):銃を携帯するための許可

Por 12は、銃を街中などへ携帯するための許可です。ここで注意が必要なのは、「学校銃撃事件を受けて8月11日から民間人の銃携帯が初めて禁止された」という理解は正確ではないという点です。

アヌティン首相は実は2026年2月19日にも、Por 12の新規発行を全国で1年間停止する命令に署名しており、官報掲載後の2月20日から実施されていました。つまり、公共空間への銃携帯は以前から厳しく制限されており、Por 12の新規発行も今年2月から停止中だったのです。今回は、これに加えてPor 3まで止め、既存銃を含む制度全体を厳格化する動きとみるのが正確です。

タイ政府広報局によると、銃器法第8条の2では、正当な理由や必要性なく、市街地・村落・公共道路などへ銃を持ち出すことは禁止されています。Por 4を持つ合法銃であっても同様で、違反した場合は最高5年の禁錮または1万バーツ以下の罰金、もしくはその両方が科される可能性があります。

検討されている改正案

今回の政府方針で目指されているのは、銃の「一生」を追跡する制度への転換です。現在のタイでは、輸入から銃砲店、Por 3、購入、Por 4、所有、譲渡という流れの情報が、完全にはリアルタイムで連携されていません。紙中心の古い仕組みが残っており、「Por 3を発行した人が実際にPor 4まで取得したのか」などを人手で確認する必要があるとされています。

政府は今後、銃を輸入した段階から、店頭在庫、購入者、登録、譲渡、税金までを一元的にリアルタイムで追跡するシステムへの変更を検討しています。あわせて、現在は期限のない銃許可について、**パコーン副首相が8月12日、3年程度の更新制にする案を示しました**。所有者が現在も適格かどうかを再確認する構想です。

ただし、ここは注意が必要な点です。**3年更新制は、まだ法律として確定したものではありません**。現時点では、内務省・地方行政局・法制委員会で制度設計を検討している段階の「改正案」です。「タイの銃許可が3年更新になった」ではなく、「政府が3年更新制を軸に法改正を検討している」というのが正確な表現です。

「自宅で撃てない」発言をめぐる混乱と訂正

今回、大きな騒動になったのが、正当防衛をめぐる首相発言です。8月11日、アヌティン首相は記者から「自宅に置いてある銃を自己防衛に使えるのか」と聞かれ、「家の中でも撃てない。泥棒を撃っても違法になる」という趣旨の発言をしました。これがタイ国内で、「強盗が家へ入ってきても撃ち返してはいけないのか」という大きな議論になりました。

しかし、この説明はタイ刑法の正当防衛規定を正確に表したものではありませんでした。8月12日、タイ国家警察の報道官が改めて法律上の考え方を説明しています。タイ刑法第68条では、違法な侵害による危険が差し迫っており、自分または他人の権利を守るために、状況に相応した防衛行為をした場合は犯罪にならないという正当防衛が認められています。

したがって、「侵入者を撃ったら必ず犯罪」でもなければ、「家に入ってきた人なら無条件で撃ってよい」でもありません。判断されるのは、次のようなポイントです。

  • 違法な侵害だったか
  • 危険が差し迫っていたか(今まさに危害を受ける状態か)
  • 防衛目的だったか(復讐ではないか)
  • 手段が相応だったか(必要以上の攻撃ではないか)
  • 危険が終わっていなかったか(逃げる犯人を追いかけて撃つ等ではないか)

例えば侵入者が武器を持ち、家族へ接近しており、生命への危険が差し迫っている状況なら、銃を使用した行為が正当防衛と認められる可能性があります。一方、犯人が逃げ始めて危険が終了した後に追いかけて撃った場合は、評価が変わります。さらに刑法第69条では、正当防衛の必要性自体はあったものの「やり過ぎた」場合、裁判所が刑を軽減でき、強い恐怖やパニックによる場合には刑を免除できる可能性もあります。

また、首相は銃器犯罪について警察が捜査段階で保釈に反対するよう求めましたが、これは「違反者には厳しい実刑を科すことが決定した」という意味ではありません。最終的な保釈判断や刑罰は司法手続きによって決まるものであり、首相の発言はあくまで警察への要請という位置づけです。

なぜタイでは民間の銃保有が多いのか

ASEAN NOWが紹介するSmall Arms Surveyの推計では、タイの民間保有銃は約1,030万丁、人口100人当たり約15.1丁とされ、東南アジアで最も高い水準です。ただし、これは2026年時点の最新の実数ではなく、2017年時点の推計である点に注意が必要です。

タイで銃が広く流通してきた背景として、次のような要因が指摘されています。

  • 合法的な自己防衛目的の所有制度
  • 違法銃市場・オンライン売買
  • ミャンマー・カンボジア国境などを通じた密輸
  • 警察・軍など公的部門向け銃が民間へ流れる問題
  • 官公庁職員などが市場価格より有利な条件で銃を購入できた「福利厚生銃(ปืนสวัสดิการ)」制度

福利厚生銃制度については、タイ国家汚職防止委員会(NACC)も、不適切な名義利用や複数銃購入、第三者への転売などの問題を指摘してきました。今回の政府方針では、こうした福利厚生銃の新規制度も一時停止する方向で、8月13日には地方行政局長が「一般市民だけでなく公務員向けについても銃の量を増やさない」という考えを示しています。

専門家の視点:(タイメディア報道)

タイ紙Siamrathに掲載された「銃が思っているより身近にあるとき」という論説は、政府の公式見解ではなく、プラポッククラオ研究所・政治統治学院副院長のジャルポン・ルアンスワン氏による分析記事です。この点は明確に区別しておく必要があります。

ジャルポン氏は、「問題は『なぜ犯人が撃ったのか』だけではなく、『怒り、ストレス、対立などの一時的な感情を持った人が、なぜ簡単に致死性の高い道具へアクセスできるのか』を考える必要がある」という趣旨を述べています。銃問題を、許可制度、既存銃の追跡、違法銃の排除、所有者のリスク再評価、学校などの安全対策を含む「システム」の問題として捉えるべきだと指摘しています。

さらに、「『銃=力・強さ・身を守る手段』という文化が定着すると、『危険だから銃が欲しい→銃が増える→日常的な対立が致命的になりやすい→さらに不安になる』という循環が生まれる」という分析も示しています。学校に警備員や金属探知機を置くだけでは不十分であり、社会に出回る銃器そのものの循環を断たなければ根本的な解決にならないという指摘です。

日本の銃刀法との違い

日本の銃砲刀剣類所持等取締法では、銃砲や刀剣類の所持は原則禁止です。例外的に、都道府県公安委員会の許可を受ければ、狩猟や標的射撃などを目的に猟銃・空気銃を所持できます。申請には、講習、射撃教習、身元・経歴確認、診断書、保管設備の確認などが必要です。日本では、一般市民が護身目的で拳銃を所持する制度は基本的にありません。

一方タイでは、条件を満たした一般市民が、自衛、スポーツ射撃、狩猟などを理由に銃の所有許可を申請できる制度が存在します。タイ政府自身も、Por 4の合法銃について「住居で生命・財産を守るために保管する」と説明しています。これが、日本とタイの制度における最も大きな違いです。

正当防衛の考え方自体は、実は両国でかなり近いものです。日本の刑法第36条も、「急迫不正の侵害」に対し、自分または他人を守るため「やむを得ず」行った行為は罰しないと定めており、過剰防衛については刑を減軽・免除できる規定があります。タイ刑法第68条・69条の考え方と基本的な構造は似ています。大きく違うのは、正当防衛のルールそのものよりも、「そもそも一般市民の家に合法的な拳銃がある可能性」という部分です。

主な違いを表で整理すると、次の通りです。

  • 法律の基本思想:タイは許可を得れば民間人の銃所有が可能、日本は所持禁止が原則
  • 拳銃の自宅防衛目的の所有:タイは条件付きで制度上可能、日本は一般市民には通常認められない
  • 猟銃:タイ・日本とも許可制、ただし要件・手続きの厳格さに違いがある
  • 購入許可:タイはPor 3、日本は銃ごとの所持許可等
  • 所有許可:タイはPor 4、日本は都道府県公安委員会の許可
  • 公共空間への携帯:タイは別途Por 12が必要(現在新規発行停止)、日本は正当な理由なく携帯・運搬不可
  • 許可更新:タイのPor 4は従来基本的に期限なし(3年更新制を検討中)、日本は定期更新
  • 正当防衛:タイは刑法68条、日本は刑法36条。考え方は近い

日本では初めて猟銃を持つ場合、初心者講習、教習資格認定、射撃教習、銃の所持許可申請、銃の確認という段階的な手続きが必要で、申請・更新では医師の診断書、講習修了証明、技能講習なども求められます。この点、タイの現行制度は、更新や再審査の仕組みが比較的緩やかだったといえ、今回の改正案はこうした部分を日本の制度に近づける方向とも捉えられます。

日本人が注意すべきこと

タイに住む日本人や旅行者は、次の行為を避けるべきです。

  • タイ人の知人から銃を借りる
  • 他人の銃を一時的に預かる
  • 車や荷物で銃を運ぶ
  • 自宅に銃を保管する
  • 銃の売買・輸送を仲介する
  • 「護身用なら問題ない」と考える
  • 射撃場以外で銃を扱う
  • SNS上の銃器売買や譲渡に関わる

銃器に関する具体的な許可や保管の問題は、所轄の郡役所、警察、内務当局などに確認してください。緊急時は警察191、観光警察1155、救急1669です。

タイの大手メディアおよび現地メディアの報道をもとにまとめています。

まとめ

ノンタブリー県の学校銃撃事件を受け、タイ政府は銃規制の大幅な見直しに乗り出しています。アヌティン首相は一般市民による銃の公共空間への持ち出しを厳しく取り締まる方針を示し、8月13日には購入許可「Por 3」の新規発行が全国で一時停止されていることが確認されました。一方、携帯許可「Por 12」は今回初めて止まったのではなく、すでに2026年2月から新規発行が停止されていた点には注意が必要です。

タイでは日本と異なり、条件を満たした一般市民が自己や財産の防衛を理由に拳銃を合法的に所有できる制度があります。政府は今後、現在基本的に期限のない所有許可について3年程度の更新制を導入することを検討していますが、これはまだ確定した制度ではありません。また、首相の「自宅で泥棒を撃っても違法」という発言が議論を呼びましたが、タイ警察は翌日、正当防衛の権利自体は変わっていないと説明しています。

タイでは合法的な拳銃が一般家庭に存在し得るという点は、日本の感覚とは大きく異なると感じています。今回の見直しが、日本のような講習・診断書・定期更新といった厳格な制度に近づくのか、それとも別の形に落ち着くのか、今後の法改正の行方を注視していきたいと思います。続報が入り次第、あらためてお伝えします。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 今回、タイで銃の携帯が初めて禁止されたのですか?

いいえ、そうではありません。銃携帯許可「Por 12」の新規発行は、今回の事件より前の2026年2月からすでに1年間停止されていました。今回の措置は、既存の制限をさらに厳しくし、購入許可「Por 3」の新規発行も止めるなど、対象を広げる形です。

Q2. タイでは自宅に強盗が入っても銃で反撃できないのですか?

正当防衛の権利自体はなくなっていません。タイ刑法第68条により、差し迫った違法な危険に対し、相応な範囲で行った防衛行為は正当防衛として認められる可能性があります。ただし、「侵入されたから何をしても正当防衛になる」わけではなく、危険の切迫性や反撃の程度などが個別に判断されます。

Q3. 銃許可の3年更新制はもう決まったのですか?

いいえ、まだ決まっていません。パコーン副首相が8月12日に一つの案として示したもので、現在は内務省や地方行政局などで制度設計が検討されている段階です。今後、正式な法改正として成立するかどうかは続報を確認する必要があります。

出典・参考サイト

  • Thai PBS
  • Siamrath(สยามรัฐ)
  • タイ政府広報局(กรมประชาสัมพันธ์)
  • ASEAN NOW
  • Small Arms Survey
  • Reuters

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Keita Satou
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスの持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォロワー1900人)や複数のSNS(総フォロワー8万人以上)を運営する。日本のテレビ・メディア取材経験多数あり。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。

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Keita Satou
Keita Satou
タイ在住ライター
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
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