タイ最高裁が逆転判決 タクシン氏に176億バーツの納税を命じる
2025年11月17日、タイの最高裁判所は、元首相タクシン・チナワット氏に対し、2006年の通信大手「シン・コーポレーション」の株式売却益に絡む税金、罰金、延滞金として、合計176億バーツ(約800億円)の支払いを命じる判決を下しました。
この判決は、これまでタクシン氏側の勝訴としていた下級裁判所(中央税務裁判所・専門控訴裁判所)の判断を覆す「逆転有罪(納税命令)」であり、20年近く続いた歴史的な税務争いに終止符を打つものです。
判決のポイント:手続き論より「実態」を重視
これまでの裁判では、歳入局の手続き上の不備(召喚状の問題など)を理由に、課税処分は無効とされていました。しかし、最高裁は今回、手続き論よりも「実質的な所有者は誰か」という実態を重視する判断を示しました。
- 名義貸しの認定:
タクシン氏は「株は子供たちが保有していた」と主張していましたが、最高裁はこれを退け、「子供や家政婦などは単なる名義人(ノミー)であり、実質的な所有者はタクシン氏本人だった」と認定しました。 - 税の倫理違反:
政治家による株式保有制限を回避するために名義人を使い、巨額の売却益に対する税金を逃れようとした行為について、「税の公平性と倫理に反する(lacked tax morality)」と厳しく指摘しました。
事件の背景:2006年の「シン・コーポ売却」
この事件の核心は、タクシン氏が第23代タイ首相として在任中(2001年〜2006年)に行われた巨額の株式売却にあります。
2006年1月、タクシン一族は通信大手「シン・コーポレーション」の株式(約49.6%)を、シンガポールの投資会社テマセク・ホールディングスに売却しました。売却益は730億バーツ(当時のレートで約2,000億円超)という巨額なものでしたが、当時の法の抜け穴を利用し、タクシン氏は税金を一切支払いませんでした。
「首相という立場にありながら、法の網をくぐり私腹を肥やした」として国民の激しい怒りを買い、反タクシン派(黄色いシャツ)のデモが激化。同年9月の軍事クーデターによる失脚へと繋がる、タイ現代史の大きな転換点となりました。
今後の見通しと影響
報道によると、歳入局による徴収手続きは今後1〜2ヶ月以内に開始される見込みです。タクシン氏の資産(預金、不動産など)の差し押さえに発展する可能性があります。
タクシン氏は現在、王室への不敬罪(刑法112条)など複数の法的リスクを抱えつつ、病気を理由に警察病院での収容(服役)が続いています。
まとめ
今回の逆転判決の背景には、ペートンターン首相(タクシン氏の娘)の求心力低下による失脚、そしてタイ政界が事実上の「脱タクシン」へと舵を切り始めたという大きな流れが見え隠れします。
また、2025年5月には妹のインラック元首相に対しても、コメ担保制度を巡る職務怠慢で約100億バーツの賠償命令が出ています。兄妹への相次ぐ巨額の支払い命令は、シナワット家への包囲網が狭まっていることを示唆しています。
カンボジアとの国境紛争での強硬姿勢も含め、一連の動きはタイが再び軍事政権時代のような強力な統制へと戻りつつあることを示唆しているのかもしれません。今回の判決は、単なる税務問題の決着ではなく、タイ政治の新たな転換点となる可能性があります。
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この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
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