トランプ大統領が日本とタイ含む東南アジア4か国と重要鉱物・レアアース確保に関する協定に署名
ドナルド・トランプ米大統領は、2025年10月下旬のアジア歴訪中、日本および東南アジアの4カ国(タイ、マレーシア、ベトナム、カンボジア)と、重要鉱物およびレアアース(希土類)資源の確保に関する画期的な協定・覚書に相次いで署名しました。
これは、ハイテク産業に不可欠なこれらの素材における中国への依存度を減らすための大きな戦略的動きとして、ワシントンポストやアルジャジーラなど世界の主要メディアが報じています。この記事では、各協定の内容と背景、そして専門家が指摘する課題について詳しく解説します。
背景:中国の輸出規制への戦略的対応
今回の協定締結は、中国が2025年10月9日に発表した広範な新しい輸出規制に直接対応するものです。
中国の新たな制限措置は、世界中の外国企業が中国産レアアース素材を微量(0.1%)でも含む製品を輸出する場合や、中国の技術を用いて生産する場合に、中国政府の承認を義務付けるという内容です。これは事実上、中国の管轄権を世界的に拡大する試みとも言えます。
現在、中国は世界のレアアース採掘の約70%、そして加工・精製能力の約90%を支配しているとされ、貿易摩擦において絶大な影響力を持っています。この新たな規制は12月1日から全面的に施行される予定であり、日米をはじめとする各国は、中国に依存しないサプライチェーンの構築を急務としていました。
協定の概要:日本との包括的枠組みと東南アジアとのMOU
トランプ大統領は、10月30日に予定されている中国の習近平国家主席との首脳会談に先立ち、同盟国やパートナー国との連携を強化しました。ただし、各国との合意内容は、その範囲と拘束力において異なります。
日本:5,500億ドル投資を含む包括的協定
- 署名: 2025年10月28日、東京にてトランプ大統領と日本の高市早苗首相が署名。
- 内容: 最も包括的な枠組み協定であり、協調投資、共同備蓄体制、供給途絶時の迅速対応グループの設立などが含まれます。
- 投資約束: 日本はこの協定の一環として、半導体、医薬品、重要鉱物プロジェクトを対象に、米国経済へ5,500億ドルの投資を約束したと報じられています。(出典: Reuters, Al Jazeera)
東南アジア4カ国(タイ、マレーシア、カンボジア、ベトナム)
- 署名: 10月26日から27日にかけて、ASEAN首脳会議が開催されたマレーシア・クアラルンプールにて、各国と個別に覚書(MOU)を締結。
- 内容: 主に、アメリカ企業が各国のレアアース・重要鉱物資源へアクセスできる範囲を拡大し、米国企業への輸出規制を防止することを約束するものです。
- 各国との違い:
- マレーシア: 米国への重要鉱物の輸出割当を課さないことに合意し、米国の工業製品・農産物への大幅な優遇的市場アクセスを約束。
- タイ: 米国製品の約99%に対する関税障壁の撤廃を誓約。あわせて、重要鉱物協力に関する非拘束的な覚書(MOU)にも署名しました。
課題と今後の展望
今回の協定締結は、脱・中国依存のサプライチェーン構築に向けた大きな一歩ですが、専門家からはいくつかの課題も指摘されています。
- 法的拘束力: 特に東南アジア諸国との協定は、法的拘束力のない「覚書(MOU)」が中心です。このため、各国の政治的変化(政権交代など)によって、その持続性が揺らぐ可能性が懸念されています。(出典: Asia Financial)
- 精製能力の課題: レアアースは採掘するだけでは使えず、高度な「精製・加工」プロセスが必要です。現在この能力の90%を中国が握っており、タイやマレーシアで新たな精製施設をゼロから立ち上げるには数年単位の時間と莫大なコストがかかります。
- 環境問題: レアアースの精製は、放射性物質を含む廃棄物や有害な化学物質を排出します。大規模な施設を建設・稼働させるには、各国で実質的な環境保護措置や厳格な規制の整備が必須となり、これも時間のかかる要因となります。
まとめ
トランプ大統領による今回のアジア歴訪と一連の協定署名は、中国の新たな輸出規制強化に対し、日米および東南アジア諸国の連携によって「脱・中国依存」のサプライチェーンを構築するという米国の強い意志を示すものです。
日本からは5,500億ドルという巨額の投資約束が報じられる一方、タイを含む東南アジア諸国との連携は、現時点では「非拘束的なMOU」が中心であり、多くの課題も残されています。
10月30日に予定されている米中首脳会談で、貿易摩擦やサプライチェーンの安全保障問題が主要議題となる中、今回の協定がどのような外交的影響を与えるのか、そしてタイやマレーシアでのレアアース開発が今後具体的に進展するのか、中長期的な視点で注目していく必要があります。
出典・参考サイト
- The Washington Post
- Al Jazeera
- Reuters
- Tom’s Hardware
- Asia Financial
- Center for Strategic and International Studies (CSIS)
この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。

