タイの母 シリキット王太后ご逝去 日本皇室とタイ王室「最高の信頼」と「特別な交流」

2025年10月24日、タイ国民から「タイの母」として深く敬愛されてきたシリキット王太后陛下がご逝去されました。謹んで哀悼の意を表します。
王太后陛下のご逝去はタイにとって大きな悲しみであると同時に、長年にわたりタイ王室と深い交流を続けてきた日本の皇室にとっても、大きな喪失として受け止められています。
この記事では、シリキット王太后陛下と日本の皇室との間に築かれた「特別な交流」の歴史と、タイ王室やメディアが日本皇室を「特別な家族」とまで表現するに至った深い絆について、これまでの報道や記録を基に振り返ります。また、今後の葬儀への日本の皇室・政府関係者の参列に関する現時点での情報についても触れます。
シリキット王太后陛下のご逝去について(概要)
- 崩御: 2025年10月24日(金)21時21分、チュラロンコン病院にて(享年93歳)。
- 服喪: ワチラーロンコーン国王陛下は、王族および王室関係者に1年間の服喪を指示。
- 国葬: 王宮内ドゥシット・マハープラサート宮殿にて、王室最高儀礼に則り執り行われる予定。
- 葬儀日程: 現時点(10月26日午前)で、具体的な葬儀(火葬式)の日程は未定です。タイの王室葬儀は準備に時間を要するため、発表まで時間がかかると予想されます。
(ご逝去に関する詳細や服喪期間中の注意点についてはこちらをご覧ください)
日本皇室とタイ王室:「特別な交流」の歴史

日本とタイ(旧シャム)の交流は古く、16世紀の朱印船貿易にまで遡りますが、近代的な外交関係は1887年(明治20年)の「日・シャム修好通商に関する宣言」によって始まりました。ラーマ5世(チュラロンコーン大王)と明治天皇の時代から、両国の王室・皇室間の公式な往来が始まり、その関係は「王室同士の信頼・敬意の絆から始まった」とタイ側では評価されています。
両家の関係が特に深まったのは、昭和の時代、プミポン前国王陛下(ラーマ9世)とシリキット王太后陛下(当時は王妃)の治世においてです。
- 1963年:
プミポン前国王陛下とシリキット王妃陛下が国賓として初めて日本を訪問。昭和天皇・香淳皇后との親しい交流が、両家の距離を一気に縮める象徴的な出来事となりました。タイメディアはこの訪問を両家の「特別な絆(ความสัมพันธ์อันแน่นแฟ้น)」の始まりとして頻繁に振り返ります。 - 1964年:
当時の皇太子同妃両陛下(現・上皇上皇后両陛下)がタイを公式訪問。これを契機に、両家の間の個人的、公的な交流が定着していきます。 - 1990年代以降:
上皇上皇后両陛下は、即位後も含め、タイ王室関連の行事などで歴代最多となる7回タイを訪問されています。シリキット王太后陛下ご自身も、文化・医学関係の行事などで何度も日本を訪問されました。1997年のご訪問時には、天皇皇后両陛下(当時)主催の晩餐会に出席され、名誉博士号も授与されています。 - 慶弔時の交流:
両家は、互いの誕生日や即位などの国家的慶事、そして崩御などの弔事のたびに、皇族・王族ご自身や使節を派遣し合い、深い弔意や祝意を直接伝え合う関係を続けてきました。タイ側では、日本の天皇陛下からの祝電・弔電が頻繁に報じられ、日本がアジアで最も深い「王室外交」をタイと行っていると認識されています。 - 2017年:
プミポン前国王陛下の葬儀(火葬式)には、日本の皇室を代表して秋篠宮ご夫妻が参列されました。タイメディアはこの参列を大きく報じ、両家の特別な関係を示すものとして伝えました。
タイ王室にとって日本皇室は「特別な家族」

このような長年にわたる頻繁で心温まる交流を通じて、タイ王室関係者やタイメディアは、日本の皇室を「特別な家族」「兄弟同然」と表現することがあります。これは単なる外交辞令を超えた、深い親近感と信頼の表れと言えるでしょう。
特にシリキット王太后陛下は、この特別な関係を築き、維持する上で中心的な役割を果たされた存在として、タイ国内で認識されています。
- 上皇后美智子さまとの特別なご交流:
同世代の皇后・王妃として、上皇后美智子さまと長年にわたり心温まる友情を育まれたことは、タイ国民にもよく知られています。互いの文化(養蚕とタイシルクなど)に関心を示し合われたエピソードは、両陛下の知性と優雅さを示すものとして好意的に報じられています。 - 文化交流への貢献:
王太后陛下は、ご自身の文化的教養に基づき、日本の伝統工芸や文化事業との連携を重視されました。タイの文化(特にSUPPORT財団によるタイシルク振興など)を国際的に広める役割の中で、日本の皇室との交流も重要な舞台の一つでした。
この皇室・王室間の「特別な絆」は、タイ側では「両国関係の礎」「安定の象徴」「最高の信頼」と位置づけられ、両国の国民感情や文化交流、外交関係全体の安定した基盤としても、非常に重要な役割を果たしてきたと考えられています。
今後の葬儀への日本からの参列は?
シリキット王太后陛下のご逝去を受け、日本の皇室および高市早苗内閣総理大臣、外務省など政府からは既に深い弔意が表明されており、タイ側メディアもこれを大きく報じ、「日本皇室からの深い哀悼にタイ国中が感謝している」と伝えています。
10月25日、高市早苗内閣総理大臣は、シリキット王太后陛下(Her Majesty Queen Sirikit The Queen Mother)が24日に崩御されたことを受け、アヌティン・チャーンウィーラクン・タイ王国首相兼内務大臣(H.E. Mr. Anutin Charnvirakul, Prime Minister and Minister of Interior of the Kingdom of Thailand)宛てに、以下のとおり弔意メッセージを発出しました。
「シリキット王太后陛下の崩御の報に接し、日本国民を代表し、心よりお悔やみを申し上げます。
王太后陛下は、長年にわたりタイ国民の統合と繁栄に多大なる貢献をなさいました。そのご功績は、常に我々の記憶に深く刻まれるものです。タイ国民の皆様に対し、謹んで哀悼の意を表するとともに、シリキット王太后陛下の安らかなるご永眠を祈念申し上げます。」また、同日、茂木敏充外務大臣は、シーハサック・プアンゲートゲーオ・タイ王国外務大臣(H.E. Mr. Sihasak Phuangketkeow, Minister of Foreign Affairs of the Kingdom of Thailand)宛てに、以下のとおり弔意メッセージを発出しました。
「シリキット王太后陛下の崩御の報に接し、深い悲しみの念に堪えません。タイ王室、タイ政府及びタイ国民の皆様に対し、謹んで哀悼の意を表します。
我が国皇室とタイ王室の長きにわたる関係は、現在の日タイの友好関係の礎です。シリキット王太后陛下の生前の御功績を偲びつつ、謹んで御冥福をお祈りいたします。」出典:外務省
今後の国葬(特に主要な儀式である火葬式)への日本の皇室関係者や政府関係者の参列については、以下の流れで決定される見込みです。
- タイ王室庁による葬儀日程の正式発表(現時点では未定)
- タイ政府から日本政府への正式な参列案内(招待)
- 日本政府および宮内庁による、両国の関係性や過去の慣例を考慮した参列者の検討・決定
- 宮内庁や外務省からの正式発表
ラーマ9世陛下の葬儀に秋篠宮ご夫妻が参列された前例や、両家の「特別な関係」を踏まえれば、今回も皇室からどなたかが代表として参列される可能性は高いと考えられますが、現時点では全て未定です。正式な発表を待つ必要があります。
まとめ
シリキット王太后陛下のご逝去に、改めて深く哀悼の意を表します。王太后陛下は、タイ国民にとって偉大な「国の母」であったと同時に、日本の皇室にとっては「特別な家族」ともいえる、かけがえのない存在でした。
一般的にタイは親日国と言われる理由の一つに王室と皇室の深い絆とメディアの報道があるのも要因の一つかもしれません。
両国の皇室・王室間で1世紀以上にわたり育まれてきた、敬意と親愛に満ちた「特別な交流」の歴史は、タイ側でも高く評価され、両国友好の礎として認識されています。
この深い絆は、今後の葬儀への日本の対応にも反映されることでしょう。具体的な葬儀日程や日本からの参列については、今後の正式な発表が待たれます。
出典・参考サイト
- 外務省
- 宮内庁
- 在タイ日本国大使館
- Bangkok Post, Nation Thailand, Thai PBS 等 タイ主要メディア
- ウィキペディア
- The Royal Watcher
この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。

