タイ「反カジノ」宣言で 中国からの米50万トン購入合意になるカラクリ APEC2025
2025年のAPEC首脳会議の傍らで行われたタイのアヌティン首相と中国の習近平国家主席との二国間会談が注目を集めています。この会談で、タイ側の「反カジノ政策」の宣言と、中国側による「タイ産コメ50万トンの購入合意」が同時に発表されました。
一見すると無関係に見えるこの2つのトピックが、なぜこのタイミングでセットで合意されたのか。そこには、両国の国内事情と思惑が一致した「外交パッケージ」としてのカラクリが存在します。本記事では、その背景を詳しく解説します。
会談で交わされた2つの主要な「約束」
1. タイ側の「宣言」:反カジノ政策の堅持
タイの複数のメディアによると、アヌティン首相は習主席に対し、タイ国内で一部議論があったカジノ合法化について、現政権としては進めないという「反カジノ政策」を明確に伝えました。報道によると、習主席はこの方針を「支持」「評価」したとされています。
2. 中国側の「約束」:タイ産コメ50万トンの購入
同時に、中国側はタイ産コメ50万トンの購入を約束(または購入加速を確約)しました。これはタイの主要な輸出産品であり、国内の農業セクターにとって非常に大きな経済的成果となります。
【分析】「反カジノ」が「コメ」になるカラクリ(交換条件)
この2つの合意は、正式なバーター契約書が交わされたわけではありませんが、両国の利害が一致した事実上の「外交パッケージディール」であったと分析されています。そのカラクリは、中国側の国内事情にあります。
中国側の最大の懸念:ギャンブルによる「資本流出」
現在、中国政府が最も深刻な国内問題の一つとして挙げているのが、「国民のギャンブル依存」と、それに伴う「海外への巨額な資本流出」です。
- 中国本土では賭博は厳しく禁止されています。
- しかし、多くの中国国民がマカオや東南アジア諸国(カンボジア、ミャンマー、フィリピンなど)のカジノで巨額の資金を消費しており、これは中国にとって「経済安全保障上の脅威」となっています。
- さらに、これらのカジノは、中国人を標的にしたオンライン詐欺や人身売買の温床ともなっており、社会不安の原因となっています。
もし東南アジアの大国であるタイがカジノを合法化すれば、中国からの資本流出がさらに加速することは確実でした。
したがって、タイが「反カジノ政策」を明確にしたことは、中国の経済・社会の安定を脅かす「資本流出先にはなりません」という強力な政治的メッセージとなり、中国にとって大きな「政治的な安心材料」となったのです。
見返りとしての「コメ」と「健全な観光」
タイが中国の懸念に配慮した見返りとして、中国はタイに分かりやすい実利で応えました。
- コメ50万トン: タイの基幹産業である農業を支える、非常に大きな経済的リターンです。
- 「健全な」観光の促進: タイが「反カジノ」の立場を取ったことで、中国政府はタイを「ギャンブル目的ではない安全な旅行先」として国民に推奨しやすくなり、「健全な」観光客の送客が期待できます。
合意はコメだけではない:その他の協力事項
両首脳は2025年の国交樹立50周年を前に、関係を「未来を共有する共同体」として深化させることで一致し、以下の点でも協力を確認しました。
- 越境犯罪対策: オンライン賭博や通信詐欺(スキャマー)の取り締まりを強化する(「反カジノ」と連動)。
- インフラ連結(一帯一路): 中国の「一帯一路」構想の重要プロジェクトである「中タイ鉄道」の建設を加速させる。
- 経済協力の多角化: 従来の農産物貿易に加え、グリーン経済、デジタル経済、科学技術分野での協力を強化する。
- 人的交流の深化: 国交樹立50周年の記念行事を成功させ、観光や青少年交流を深める。
まとめ
昨年発表されたカジノ法案が事実上白紙になったとみていいでしょう。政権交代があったとはいえ、タイの観光事業は量より質へとシフトするためにカジノ法案に舵を切ったわけですが、噂レベルであがっていた中国からの圧力がここにきて表面化したと解釈してもよいかもしれません。日本人目線から言うと、日本のカジノ法案も中国は歓迎していないと見てもよいでしょう。マカオとの競合や海外への資金流出を懸念した中国の思惑が見え隠れします。
今回のAPECでの中タイ首脳会談は、タイが中国の核心的な懸念(ギャンブルによる資本流出・社会不安)に政治的に配慮する姿勢を見せ、その見返りとして中国がタイの基幹産業(農業・観光)に明確な経済的実利で応えるという、両国の利害が一致した極めて戦略的な外交成果であったと言えます。
この記事の出典
この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
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