2026年からオンライン輸入品「1バーツから課税」。タイの「納税者わずか6%」の財政事情
2026年1月1日より、タイの税制が大きく変更されます。これまで1,500バーツ未満は原則免税だった海外からのオンラインショッピング(EC輸入品)に対し、今後は「1バーツから」関税および付加価値税(VAT)が課税されることになりました。
ShopeeやLazada、TikTokなどで安価な海外製品を購入していた消費者にとっては実質的な値上げとなります。この決定の背景には、国内事業者(SME)の保護という表向きの理由に加え、タイの「納税者が人口のわずか6%」という深刻な国家財政事情が存在します。
何が変わる? 2026年からの新課税ルール
タイ関税局などが発表した今回の変更の核心は、1,500バーツ以下の輸入品に対する免税措置(デミニミス規定)の完全撤廃です。
- 現行制度(2025年末まで):
1,500バーツ以下の輸入品は「関税」が免除。(※VAT7%は2024年7月より暫定的に課税中) - 新制度(2026年1月1日から):
1,500バーツ以下の免税枠を完全に撤廃。1バーツの商品からでも「関税」と「VAT(7%)」の両方が課税されます。
これにより、タイ関税局は年間約30億バーツ(約120億円)の追加税収を見込んでいます。
特に影響を受ける商品
この変更で最も影響を受けるのは、Shopee、Lazada、Temu、Tiktokshopなどで販売されている、海外(主に中国)から発送される低価格商品です。
- 低価格の日用品、雑貨、キッチン用品
- アパレル、バッグ、靴、アクセサリー類
- 電子機器、スマートフォン周辺小物(ケーブル、ケースなど)
- 美容・化粧品サンプル、玩具・ホビー用品
SNS上では、消費者から「気軽に買えていた安い中国製品が値上がりする」といった不満の声が上がる一方、国内の小規模事業者(SME)からは「不公平な価格競争が是正される」と歓迎する声も上がっています。
課税強化の「本当の狙い」:タイの深刻な税収事情
タイ政府がこのタイミングで課税強化に踏み切った「表向きの理由」は、国内SMEの保護です。しかし、より本質的な理由は、タイの構造的な国家財政の問題にあります。
1. 納税者(個人所得税)は人口のわずか6%
タイの労働人口は約4,000万人ですが、統計によれば、実際に個人所得税を納めている(納税額がゼロではない)のは、約400万人程度。これは総人口(約6,700万人)のわずか6%に過ぎません。
この背景には、屋台、農家、個人事業主といった「インフォーマル・セクター(非公式経済)」の割合が非常に高いことや、年間所得15万バーツ以下は実質免税となるなど、控除が手厚い税制があります。
2. VAT(付加価値税)に依存せざるを得ない国家財政
個人所得税からの税収が限定的であるため、タイの国家税収はVAT(付加価値税7%)、すなわち「消費」に対して広く浅く課税する「間接税」への依存度が非常に高くなっています。
一方で、タイは急速な高齢化による社会保障費の増大や、「デジタルウォレット」のような大規模な景気刺激策(バラマキ政策)により、「歳出(支出)」は増え続けています。「入るお金(税収)は増やしにくいが、出るお金(支出)は増え続ける」という慢性的な財政赤字状態なのです。
まとめ
オンラインショップへの便利さや依存度の高さはタイにいても肌で感じます。また屋台や商店で購入する際にも正規の領収書を発行してもらえないお店や事業者も多く。法人側としては、仕入れとして経費に充当できないという事例が頻発しています。タイではインヴォイス制度なのでTAXID付きの請求書や領収書でないと経費として計上できません。
今回の「オンライン輸入品1バーツから課税」という決定は、単なる国内産業の保護という側面だけでなく、税収をVATに大きく依存せざるを得ないタイ政府が、これまで取りこぼしていたECプラットフォーム経由の税(特に関税とVAT)を確実に徴収するための、現実的な財源確保策であると分析できます。
2026年以降、タイで海外のECサイトを利用する際は、表示価格に関税とVATが上乗せされることを前提に購入を判断する必要があります。
この記事の出典
この記事を書いた人
keita satou(タイムラインバンコク編集部)
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォワー1700人)や複数のSNS(総フォワー7万人以上)を運営する。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
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