タイ 米国の「為替監視対象国」に継続掲載も次回解除の可能性
米国財務省は2026年7月23日、タイを為替政策などの「Monitoring List(監視対象国)」に引き続き掲載したと発表しました。ただし、タイが今回基準を超えたのは3項目中1項目のみで、為替操作国として認定されたわけではありません。米財務省は、次回も2項目未満であれば、タイを監視リストから外すとしています。
為替監視対象国とは何か
正式名称は、米国財務省の「Monitoring List」です。米国の主要貿易相手国について、政府や中央銀行が自国通貨を不当に安く誘導し、輸出競争力を高めていないか、貿易収支や経常収支に大きな不均衡がないかを継続的に確認するためのリストです。
ここで重要なのは、「監視対象国」と「為替操作国」は別物だという点です。監視対象国は、為替政策や貿易・経常収支を米国が詳しく確認する国を指します。一方、為替操作国は、自国通貨を意図的に操作して国際貿易上の不当な競争優位を得ていると米国が正式認定した国です。
今回の2026年7月報告では、タイを含む監視対象となった10カ国・地域のいずれも「為替操作国」には認定されていません。
米国が確認する3つの基準
米財務省は、2015年の貿易円滑化・貿易執行法に基づき、主要貿易相手国を次の3項目で評価しています。
- 対米貿易黒字:米国との財・サービス貿易黒字が150億ドル以上
- 経常収支黒字:経常収支黒字がGDPの3%以上
- 継続的な為替介入:12カ月のうち8カ月以上、外貨を買い越し、総額がGDPの2%以上
通常、3項目のうち2項目以上に該当すると、Monitoring Listに掲載されます。一度掲載された国は、一時的な数値変動だけで解除されることを防ぐため、原則として少なくとも2回連続の報告書で監視対象に残されます。
タイは今回、どの基準に該当したのか
2026年7月報告が評価した中心期間は、2025年1〜12月の4四半期です。
対米貿易黒字:該当
タイの米国に対する財・サービス貿易黒字は、2025年に720億ドルでした。基準は150億ドル以上なので、大幅に上回っています。前年より約58%増え、主に電子機器や電気製品の輸出増、米国の関税導入を見越した前倒し輸出などが影響したと米財務省は分析しています。
経常収支黒字:非該当
タイの2025年の経常収支黒字は、GDP比2.8%でした。基準は3%以上なので、今回はわずかに下回りました。
継続的な為替介入:非該当
タイ当局が2025年に行った外貨純購入は約100億ドル、GDP比1.8%でした。外貨購入は12カ月中10カ月に行われたとされていますが、総額がGDP比2%の基準を下回ったため、3番目の条件には該当しませんでした。
つまり、2026年7月報告におけるタイの結果は、3項目中1項目(対米貿易黒字)のみの該当です。
1項目だけなのに、なぜ監視対象に残ったのか
タイは前回の2026年1月報告で、対米貿易黒字と経常収支黒字の2項目に該当したため、新たに監視リストへ入りました。今回の7月報告では経常収支が3%未満となり、該当項目は1つに減りましたが、米財務省は一度掲載した国を少なくとも2回連続で監視する運用を採っているため、タイは今回もリストに残っています。
米財務省は、タイ、シンガポール、スイスについて、次回報告でも2項目未満であれば、監視リストから外すとしています。
タイの大手メディアおよび現地メディアの報道をもとにまとめています。
タイはバーツを意図的に安くしていたのか
今回の報告からは、そのようには判断できません。実際、バーツは2025年中に米ドルに対して9.0%上昇し、東南アジアでも特に強い通貨の一つとなりました。実質実効為替レートでも2.7%上昇しています。
米財務省は、タイ当局の為替介入について、バーツを競争上有利な水準まで安く誘導するというより、急激なバーツ高を緩和することに重点を置いていたと分析しています。さらに報告書は、タイが近年、資本規制や金融上の規制を、競争上の優位獲得や経済の基礎条件に反する為替調整の阻止に積極利用しているようには見えないと評価しています。
監視対象になると何が変わるのか
監視リスト入りだけで、直ちに制裁や罰金が科されることはありません。今回の指定によって、直ちに次のような措置が発生するわけではありません。
- タイ製品への追加関税
- タイへの経済制裁
- バーツ取引の制限
- タイの銀行への制裁
- 米ドル送金の停止
- タイへの投資禁止
- タイ人や外国人のビザへの影響
監視リストは、まず米財務省が為替介入、外貨準備、貿易黒字、経常収支、資本規制などを詳しく分析し、相手国政府や中央銀行との協議を続ける段階です。今回も10カ国・地域すべてについて、為替操作国とは認定されていません。ただし、将来3項目すべてに該当したり、意図的な為替操作を示す証拠が確認されたりした場合は、米国との二国間協議や、より厳しい分析・対応へ進む可能性があります。
タイ中央銀行への影響
タイ中央銀行は、2025年10月28日に米国財務省との共同声明で、為替介入の情報を少なくとも半年ごとに、約3カ月遅れで公開することを約束しました。共同声明では、為替介入を輸出競争力獲得のために使わず、介入が必要な場合は、通貨高と通貨安の双方における過度な変動や無秩序な動きを抑える目的に限るという考え方も確認されています。
したがって今回のリスト継続は、タイ中央銀行が為替介入を禁止されたという意味ではありません。ただし、介入額、目的、透明性について、米国から以前より詳しく見られる状態が続きます。
日本人旅行者・在住者への影響
タイ在住日本人や旅行者への直接的な制度変更はありません。このニュースだけを理由に、円・バーツやドル・バーツの相場が特定方向へ大きく動くと断定することもできません。為替は、米国の金利、タイの政策金利、原油価格、金価格、観光収入、貿易、政治情勢など多数の要因で変動します。
一方、中長期的には、米国がタイの為替介入を厳しく監視することで、タイ中央銀行が大規模なドル買い・バーツ売り介入を行いにくくなるとの市場観測が出る可能性はあります。ただし、これは制度上の自動的な制限ではなく、市場参加者による見方です。
まとめ
今回のニュースは、「タイが為替操作国に認定された」という深刻な話ではなく、3つの評価基準のうち1項目に該当したため、運用ルール上、監視リストに引き続き掲載されたというものです。次回報告で2項目未満であれば、タイは監視リストから外れる見通しです。バーツはむしろ2025年中に大きく上昇しており、意図的な通貨安誘導が行われていた証拠は今回の報告からは確認できません。
為替監視対象国ときくと何か今後影響にでるのではないかと感じた方も多いはずです。私もその一人です。むしろタイはバーツ高で困っている側面がありバーツを下げたいというのは本音だと思いますが、その影響かとすこし驚きました。
在タイ日本人や駐在者の立場から見ると、こうした経済ニュースは見出しだけを見ると「タイが為替操作で問題視された」という誤解を招きやすいテーマだと感じます。実際には、貿易黒字が大きいという、ある意味タイ経済の好調さを示す指標が理由の一つになっている点は興味深いところです。為替レートの変動は日々の生活にも関わるテーマなので、こうした制度的な背景を知っておくと、ニュースを見たときの受け止め方も変わってくると思います。
タイムラインバンコクでは、旅行者や在住者に役立つ最新情報を配信していますのでシェアやブックマークをお願いします。またSNSのフォローもよろしくお願いします。
よくある質問(FAQ)
Q1. タイは為替操作国に認定されたのですか?
いいえ。今回の報告で、タイを含む監視対象10カ国・地域のいずれも為替操作国には認定されていません。タイは3つの評価基準のうち1項目(対米貿易黒字)にのみ該当し、監視リストに引き続き掲載されただけです。
Q2. 監視対象国になると、タイに制裁や関税が科されますか?
いいえ。監視リスト入りだけで、直ちに制裁や追加関税、投資禁止などが発生することはありません。米財務省が状況を詳しく分析し、協議を続ける段階です。
Q3. 次回の報告でタイは監視リストから外れますか?
米財務省は、タイ、シンガポール、スイスについて、次回報告でも2項目未満であれば監視リストから外すとしています。ただし、これは今後の経済指標次第であり、確定した話ではありません。
出典・参考サイト
- U.S. Department of the Treasury「Treasury Releases Report on Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States」
- The Nation Thailand「Thailand stays on US currency watchlist, meets one criterion」
- Reuters「US Treasury finds no trading partner manipulated currency for trade advantage in 2025」
- Bangkok Post「Thailand among countries still on US Treasury’s currency monitoring list」

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
関連記事
- タイ人女性を福岡空港で逮捕 コーヒー袋から覚醒剤か「知らなかった」と家族は主張
- バンコク・ナナ周辺で路上売春勧誘の一斉摘発 外国人女性ら5人を国外退去へ
- バンコクでフランス人男性に警察官が発砲 フランス人男性死亡、警察官1人負傷
- 日本向け覚醒剤密輸事件の続報 バンコクでベトナム人9人を拘束、6人を薬物容疑で立件

