今回の法律の目的について
タイには、カレン族、モン族、アカ族、ラフ族といった山岳民族や、「海の民」として知られるモーケン族など、60以上ともいわれる多様な民族集団が存在します。しかし、これまで彼らの多くはタイ国民として完全な権利を享受できず、特に土地問題で深刻な困難に直面してきました。
国立公園や森林保護区の制定により、先祖代々暮らしてきた土地から強制的に立ち退かされたり、伝統的な農法(循環型焼畑農業など)が違法とされたりするケースが頻発。これにより、生活基盤を失い、貧困に陥る人々が後を絶ちませんでした。
このような状況を改善するため、民族集団の当事者や人権団体、研究者らが10年以上にわたり法制化を求めて運動を続けてきました。そして2025年8月6日、議会で圧倒的多数の賛成を得て可決され、本日9月19日の施行に至りました。
首長族として知られるカレン族(カヤン族)
独自の文化と生活様式を持つタイの民族集団
この法律により以下の事が実現される見通しです
保障される主な権利
法律の条文には、以下の具体的な権利が盛り込まれています。
- アイデンティティと文化の権利:自らの民族名を名乗り、民族衣装を着用し、母語を使用し、伝統的な儀式を行う自由が保障されます。
- 土地と天然資源への権利:伝統的に利用してきた土地や天然資源を持続可能な形で管理し、利用する共同体としての権利が認められます。これにより、一方的な立ち退き要求に対抗する法的根拠が生まれます。
- 政策への参加権:政府や地方自治体は、民族集団の居住地域に影響を及ぼす開発プロジェクトなどを計画する際、彼らの「自由な、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を得ることが求められます。
- 市民としての基本的人権:国籍取得の支援、教育や医療といった公的サービスへの平等なアクセスが保障されます。
民族集団の生活様式保護・促進法
(พ.ร.บ. คุ้มครองและส่งเสริมวิถีชีวิตกลุ่มชาติพันธุ์)
- 公布:2023年(仏暦2566年)
- 施行:2025年9月19日(官報掲載翌日)
意義と今後の課題
- 意義:この法律は、タイが「単一民族国家」であるという従来の建前から、多様な文化が共存する「多文化国家」へと舵を切る象徴的な出来事です。人権擁護の観点から国際社会からも高く評価されています。
- 課題:法律の理念を現場レベルでいかに実現していくかが今後の大きな課題です。特に、国立公園法などの既存の法律との調整や、各省庁の縦割り行政を乗り越えて実質的な権利保護を進められるかどうかが問われます。また、保護対象となる「民族集団」の定義や範囲をめぐる議論も続く可能性があります。
まとめ
性別の多様性だけでなく民族の多様性も認めたタイ。
実際に都心部や観光地では山岳民族が出稼ぎにきた際には「ガリアン」と呼称で呼ばれることも多くみられます。今後はそういった人たちの地位向上にも役立つ法案になることを期待します。
出典
この記事を書いた人
keitasatou:タイムラインバンコク編集者
バンコク在住10年以上ライター、バンコクで複数のSNSを運用しておりフォロワー総数は7万人以上。ライターという特殊な職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。Facebook
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