MENU

タイ人労働者、日本の新制度「育成就労(ESD)」へ 従来の技能実習制度との違いは?

「タイ人労働者、日本の新制度 育成就労(ESD)へ2027/4〜 技能実習制度との違いは?」というテキストと、介護・外食業・飲食料品製造業・建設・農業・製造業・宿泊業・ビルクリーニング・物流倉庫など対象職種の現場写真を並べたニュースサムネイル(縦型)。
keita satou

2026年6月2日、タイ内閣は日本の新しい外国人労働者受け入れ制度「育成就労制度(Employment for Skill Development/ESD)」に関する協力覚書(MOC)の草案を承認しました。

制度の開始は2027年4月1日予定で、これまでの「技能実習制度」に代わる新しい枠組みです。タイ人労働者の権利保護や待遇が大幅に強化され、日本で3年間働きながら技能を高め、特定技能1号へとステップアップできる明確なルートが設けられます。

この記事では、従来の技能実習制度との違いと、タイ人労働者・在タイ日本人にとっての実務的な影響をわかりやすく整理します。


育成就労制度(ESD)とは何か

育成就労制度は、日本政府が長年批判されてきた技能実習制度を発展的に解消し、新たに創設する外国人労働者受け入れ制度です。厚生労働省は「人材育成と人材確保を目的とした制度」と位置づけており、これまでの「技術移転・国際貢献」という建前から、日本の人手不足解消と外国人労働者のキャリア形成を正面から目的に掲げる制度へと転換します。

タイはESDの正式パートナー第1号となりました。報道によると、今回の覚書締結により、タイ人労働者が日本で働く際の権利保護や待遇の基準が明確化されます。


従来の技能実習制度との3つの大きな違い

① 転籍(勤務先の変更)が条件付きで可能に

従来の技能実習制度では、原則として3年間、最初に配属された企業を離れることができませんでした。劣悪な環境やハラスメントがあっても逃げ出せず、失踪者が相次ぐ原因として国内外から強く批判されてきた点です。

新しい育成就労制度では、一定の就労期間・日本語能力・同一職種内などの条件を満たせば、労働者側の希望で勤務先を変更することが法的に認められます。不当な扱いをする企業から健全な企業へ移る選択肢が生まれます。

② 日本人と同等の労働法上の保護・待遇

従来の技能実習制度では、一部の現場で日本人よりも著しく低い賃金で働かされるケースが問題視されていました。

新制度では、日本の労働法や安全衛生基準が日本人と同等に適用されます。報道によると、同種・同等の業務に対して日本人と同等水準の賃金支払いが義務付けられ、国籍を理由とした差別や不当な扱いへの保護が厳格化されます。

ただし注意が必要なのは、「日本人と同等の権利」とは主に労働法・安全衛生上の保護を指すものであり、在留資格・家族帯同・永住などの権利が日本人と同じになるという意味ではありません。

③ 特定技能への明確なキャリアルート

従来の技能実習制度は原則として実習終了後に帰国が前提で、日本に長く残るためのステップが複雑でした。

新しい育成就労制度では、3年間の就労・育成期間を経て特定技能1号相当のスキル習得を目指す仕組みが設けられます。試験に合格すれば特定技能へとスムーズに移行でき、さらに特定技能2号へ進めば在留期間の上限撤廃・家族帯同も可能となります。

日本の新制度「育成就労(ESD)」へ 従来の技能実習制度との違いについて示すインフォグラフィック

対象となる主な職種・分野

育成就労の対象は、特定技能制度と連動した17分野とされています(航空・自動車運送業を除く)。タイ人労働者の需要が高い主な分野は以下の通りです。

  • 介護:高齢者・身体が不自由な方の介助。日本の高齢化社会で最も需要が高い分野
  • 外食業:レストランでの調理・接客・店舗管理。タイ人からの希望者が特に多い分野
  • 飲食料品製造業:食品工場での加工・製造・パッキング作業
  • 建設:型枠施工・鉄筋組立て・土木作業など
  • 農業:野菜・果物の栽培、収穫、畜産業
  • 製造業:工場での金属加工・溶接・機械組み立て・電子機器製造ラインなど
  • 宿泊業:ホテル・旅館でのフロント業務・接客・レストランサービス
  • ビルクリーニング:オフィスビルや施設内の清掃
  • 物流倉庫:倉庫での入出庫・保管・仕分け

参加できる人のスペック・条件

ESDはタイ政府と日本政府が協力する送り出しルートに乗ることが前提です。単に「日本で働きたい人」が直接申し込める制度ではなく、タイ側の認証機関・送り出し機関を通る形になります。

基本条件

  • 年齢:18歳以上
  • 健康状態:良好であること
  • 素行:善良であること
  • 雇用先:日本側の受け入れ機関との雇用関係があること
  • 育成就労計画:外国人ごとに計画を作成し、認定を受けること

なお、従来の技能実習制度で課されていた「本国で同じ職種の経験がなければならない(前職要件)」や「実習後に本国で同じ職種に就かなければならない(復職要件)」はすべて撤廃されます。タイで全く異なる仕事をしていた人でも、新しく希望の職種に応募できるようになります。

日本語能力:就労開始前までにJLPT N5程度(A1相当)以上が目安。
職種によって異なる(詳細は下記参照)

※講習受講でも入国可能だが、JLPT資格取得の有無が転籍・特定技能移行のスムーズさに直結する

日本語能力の目安

報道ベースでは、ESDの入口では日本語の基礎力が必要とされています。職種ごとに必要なレベルが設定される考え方で、一律に高い基準が求められるわけではありません。

  • 就労開始前(入国時):JLPT N5程度(A1相当)以上、または相当する日本語講習の受講
  • 介護・対人業務など:職種によってはN4程度(A2相当)以上が求められる場合あり
  • 特定技能1号への移行時:JLPT N4程度(A2相当)以上の合格が必要

N5は日本語のひらがな・カタカナ・基本的な漢字、あいさつ、簡単な指示が理解できる初級レベルです。N4になると「体調が悪いので病院へ行きたい」「この作業は終わりました」など、日常生活や職場での基本的な会話ができるレベルです。

なお、「N5があれば誰でも日本へ行ける」というわけではありません。日本語能力はあくまで条件の一部であり、対象職種・受け入れ企業・育成就労計画・送り出し機関・健康状態なども総合的に確認されます。


在タイ日本人・日系企業への影響

バンコク在住10年以上の筆者の目線で見ると、この制度はタイ人労働者だけでなく、在タイ日本人や日系企業にも影響します。

タイ現地の日系企業や送り出し機関にとっては、ESDに対応した日本語教育・技能トレーニングビジネスの需要増が見込まれます。一方で、タイ国内の人手不足(介護・サービス・製造など)との「人材争奪」が起きやすくなり、タイ国内の賃金にも影響する可能性があります。

また、受け入れ企業側の負担(教育コスト・日本語教育・労働条件の整備)も増えるため、制度の運用次第では「受け入れが思ったほど進まない」リスクも指摘されています。


注意点:すぐに始まる制度ではない

今回のニュースは、タイ政府がMOC案を承認したという段階です。制度自体の開始予定日は2027年4月1日であり、現時点では準備・調整の段階が続きます。

報道によると、覚書は5年間有効で、その後も5年ごとに自動更新される予定とされています。具体的な応募窓口・手続きなどについては、タイ労働省および在タイ日本大使館の公式案内を随時確認してください。


まとめ

今回の日タイ協力覚書締結は、長年問題が指摘されてきた技能実習制度から、より公正で透明性の高い育成就労制度への大きな転換を示すものです。

  • 2027年4月1日、育成就労制度(ESD)が技能実習制度に代わって開始予定
  • タイはESD正式パートナー第1号
  • 条件付きで転籍(勤務先変更)が可能に
  • 日本の労働法・安全衛生上の保護を日本人と同等に適用
  • 3年間で特定技能1号レベルを目指し、長期就労・家族帯同への道も
  • 対象は介護・外食・建設・製造など17分野

「技能実習」から「育成就労」へ。タイ人労働者が日本で働く環境は、制度の面では大きく前進します。ただし実際の運用がどこまで機能するかは、2027年以降の動向を注視する必要があります。

私の知人の妹も日本で技能実習制度として日本で働いています。しかしながら円安の影響で、日本では思うように稼げないという声を先日聞いたばかりです。今回の制度を通して日本人と同じ待遇で仕事できるようになり給料ベースもあがるようになれば日本で働きたいタイ人も増えるかもしれません。タイは王国制度であり仏教徒でありながら、米食が主食の民族です。日本での文化の違いも他の宗教の方々ほど不自由に感じないかもしれません。

この記事は、タイの大手メディアおよび現地メディアの報道をもとに作成しています。


出典


著者プロフィール

keita satouアイコン

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,700人)をはじめ、複数のSNSで合計7万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。

関連記事

about me
Keita Satou
Keita Satou
タイ在住ライター
タイ在住ライター バンコク在住10年以上。旅行ライセンスの持つタイ法人の社員のかたわらライターも行う。タイ在住日本人向けのメディアとタイ人向けメディアを運営。Facebook(フォロワー1700人)や複数のSNS(総フォロワー7万人以上)を運営する。日本のテレビ・メディア取材経験多数あり。職業柄、各業界のタイの裏話を聞くことも多数あるそう。
記事URLをコピーしました