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タイの徴兵制に志願者が過去最多の理由とタイの徴兵制

タイの徴兵制度(抽選)の様子を描いた4枚のイラストコラージュ。壺からカードを引く若者、兵士による身体検査(胸囲測定)、祈る若者、そして見守る家族の涙が描かれている。上部には「タイの徴兵制度 応募過去最多でくじ中止の会場も その理由について考察します」という日本語テキストが配置されている。
Thaim Line Bangkok

タイ陸軍の速報によると、今年の入隊志願者数はオンラインと会場での直接志願を合わせて3万人を突破しました。

タイ全土で実施されていた恒例の「徴兵くじ」が最終日を迎えました。例年、赤紙を引いて卒倒する若者や黒紙を引いて狂喜乱舞する姿がニュースを賑わせますが、2026年はこれまでにない大きな異変が起きています。

それは、「くじを引かずに自ら志願して入隊する若者が過去最多を記録した」という事実です。なぜ今、タイの若者はあえて軍隊を選ぶのでしょうか?その理由と、知っておくべきタイ徴兵制度の仕組みについて詳しく解説します。

この記事のポイント

  • 志願者過去最多: オンライン募集目標28,209人に対し、達成率105.9%を記録。
  • 経済背景: 2025年末からの不況と大量解雇により、軍が安定した就職先として浮上。
  • 国境緊張: 対カンボジア紛争の激化により、若者の国防意識に変化。
  • 期間の優遇: 大卒なら志願で「わずか6ヶ月」という戦略的短縮が可能。

1. なぜ志願者が過去最多なのか?
背景にある2つの現実

2026年、タイの若者が約3万人も志願入隊を選んだ背景には、タイ社会が直面している極めてシビアな現実があります。

深刻な雇用不安と軍のセーフティネット化

2025年末までに、タイ国内では社会保険加入者の解雇件数が53万件を超え、2026年も毎月4万人ペースで失職者が増えると予測されています。軍隊では月額約11,000バーツ(手取り約8,000バーツ前後)の手当に加え、衣食住がすべて保証されます。これは現在の民間最低賃金を上回る水準であり、食事と住居が保証される軍隊は、失業率が高まる中での「最も確実な就職先」となり応募する若者が急増しました。

カンボジアとの国境緊張による意識変化

2025年に発生したプレアビヒア周辺での武力衝突と、現在も続く国境付近での緊張状態が、国民のナショナリズムを昂揚させました。「国を守る」という大義名分が、以前よりも軍への入隊に対する心理的ハードルを下げている側面があります。

他には仕組みとルールを知ってあえて志願する場合もあるそうです。

2. タイの徴兵制度:仕組みとルールを徹底解説

タイの徴兵制は1954年制定の兵役法に基づいています。21歳になるタイ人男性は、人生を左右するこの儀式を避けて通ることはできません。

運命を分ける「くじ引き(抽選)」

会場に設置された壺の中から、残り枠の数だけ入ったカードを引きます。

  • 赤紙(バイ・デーン): 徴兵確定。原則として最長2年間の軍務。
  • 黒紙(バイ・ダム): 免除確定。一生、徴兵されることはなくなります。

学歴による期間短縮と免除の「裏技」

タイの徴兵制は、教育水準が高いほど軍務期間が短くなる仕組みです。2026年も、多くの若者がこのルールを戦略的に利用しています。

  • 中卒・高卒:(抽選)2年間 (志願)1年間
  • 大学卒業以上:(抽選)1年間(志願)6ヶ月間
また海外留学すると以下の制度が適応されます
  • 延期できる年齢: 21歳から最大26歳まで延期可能です。
  • 27歳になる年: 延期が認められなくなり、必ず帰国して徴兵検査(抽選)を受ける義務が生じます。
  • 対象者: 21歳になる年に徴兵対象となりますが、海外の教育機関(高校・大学・大学院)に在籍している場合は申請が可能です。

一部には、30歳を過ぎるまで海外に留まり続け、時効(または帰国時の少額の罰金支払い)を狙うケースがあるためです。しかし、これは法的にグレー、あるいはアウトな「逃亡」であり、一般的な富裕層のスマートな戦略とは言えません。

週1回の軍事訓練「Rodor(ロドー)」

タイの富裕層や中流階級の子供たちが徴兵を避けるために使う最も一般的で合法的な方法は、留学ではなく「ロドー(Rodor)」と呼ばれる軍事訓練プログラムです。

  • 仕組み: 高校(マタヨム4〜6)から大学にかけて、週に1回程度の軍事訓練を計3年間受けると、21歳になった時の「くじ引き」が免除されます。
  • 経済格差の反映: ロドーに参加するには学校側の対応や一定の費用が必要なため、私立学校や都市部の進学校に通う余裕がある家庭の子弟は、ほぼ全員がこれで免除資格を得ます。
  • 結果: くじ引き会場に並ぶのは、このロドーを受ける機会がなかった地方や低所得層の若者が中心になるという構造的な不平等が生まれています。

留学やロドー以外の方法として、昔から囁かれているのが「賄賂(お茶代)」による不正な免除ですが、発覚すれば本人だけでなく家族も社会的制裁を受けるため、最近では以前ほど簡単ではないという見方が強いです。

まとめ:

2026年の徴兵志願者の急増は、タイの若者がいかに将来の経済状況をシビアに見ているかを示す「鏡」です。これまで「逃れるべき義務」だった徴兵が、不況によって「安定した就職先」や「自国の有事」が結果的に価値感を変えている現実は、在住日本人経営者にとっても無視できない雇用環境の変化と言えるでしょう。

また徴兵逃れといわれる海外留学や今回私も調べてはじめて知ったロドーという制度は、経済格差による公平な徴兵のくじを妨げている要因になるとあらためて感じました。徴兵制度のない我々日本人では実感しにくいのも現実です。

現在、野党の人民党を中心に「強制徴兵の廃止」も議論されていますが、この志願者増というデータが、2027年以降の完全志願制移行への追い風となるか、今後の政治動向に注目です。


著者プロフィール

keita satouアイコン

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイの裏話や現場の実情に触れる機会も多く、複数のSNSで合計7万人以上のフォロワーを抱える。現場目線での雇用・社会情勢レポートに定評がある。

出典・参考サイト

  • Nation Thailand – Military Draft 2026: Volunteer Goals Reached
  • Reuters – Thailand Layoff Trends and Economic Outlook 2026
  • Manila Times – Record Numbers Volunteer for Thai Military Service

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タイムラインバンコク編集部は、バンコクに在住する経験豊富な編集者とライターからなる専門チームです。日本人メンバーだけでなく、日本語能力試験N1を持つタイ人メンバーも在籍しており、多様な視点から情報を捉えることを大切にしています。 インターネット上の情報だけでなく、実際に現地へ足を運び、独自の取材・調査を行うことを信条としています。グルメ、ビューティー、最新ニュースからカルチャーまで、バンコクで暮らす人、訪れる人にとって本当に価値のある、正確で信頼できる情報を厳選してお届けします。日本のメディアに情報提供することもあります。
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