タイの土産店でカード情報の「スキミング」事件 被害2,900万バーツ 中国人ら4人を立件
タイ警察中央捜査局(CIB)は、チェンマイとバンコクのドライフルーツ・土産店を利用し、中国人観光客のクレジットカード情報を不正に読み取っていた疑いで、中国人1人とタイ人3人を立件しました。確認されている被害者は中国人1,200人以上、被害額は約600万人民元、タイ通貨で約2,900万バーツです。ただし、この金額がタイ国内の店から直接盗まれたわけではなく、タイでカード情報を盗み、米国で偽造カードを使って商品購入や現金引き出しを行ったとされる国際的な事件です。

発覚のきっかけ
報道によると、事件は中国公安部の経済犯罪捜査部門と上海市警察が、中国人名義のカードを使った不正利用を調べたことから発覚しました。被害者のカード情報は中国国外で使われ、米国内で高級ブランド品や電子機器の購入、ATMからの現金引き出しなどに利用されていました。被害者に共通していたのは、過去にタイを旅行し、チェンマイやバンコクでUnionPayカードを使っていたことでした。
中国大使館がタイ警察へ捜査協力を要請し、タイ警察の経済犯罪抑制部門が店舗や決済記録を調べました。
スキミングに利用された疑いのある3店舗
警察がカード情報の読み取り場所として特定したのは、次の3店舗です。
- CM Yummy Fruit Dried:チェンマイ県ムアン郡スーテープ地区
- Fruit Dried Shop:チェンマイ県ムアン郡スーテープ地区
- Yaowarat Fruit Dry:バンコク・ヤワラート通り
いずれもドライフルーツや土産品を販売する店舗でした。警察は発表時点で、3店舗はすでに営業を停止していると説明しています。これは架空の店だけを用意した単純な詐欺ではなく、実際に商品を販売して通常の会計も行いながら、その支払い過程にカード情報を盗む手順を組み込んでいた疑いがあります。
「UnionPayなら32%割引」でカード利用を誘導
3店舗では、UnionPayカードで支払うと32%割引になるという宣伝を掲示し、中国人観光客にカード決済を促していました。店員の供述によると、UnionPayカードを使う客には、カードを2回通すよう指示されていました。
1回目は、通常の決済端末ではなく、レジ付近に置かれたコンピューターのキーボードへカードを通します。店員は「32%割引を適用するために必要な手続き」などと説明していたとされます。その後、2回目に正規のEDC決済端末へカードを通し、商品の代金を実際に決済していました。
キーボードの内部にカード読み取り装置
警察が押収したキーボードには、カードの磁気ストライプを読み取る小型装置が隠されていました。外見は一般的なコンピューター用キーボードですが、側面などにカードを通すと、磁気ストライプ内の情報が記録されるよう改造されていたとされています。
警察が実際に装置を試したところ、カードを通した直後に、読み取ったデータが店舗のコンピューターからLINEを通じて関係者へ送信される仕組みになっていました。盗まれる可能性があるのは、カード番号、有効期限、磁気ストライプ内の決済情報などです。
防犯カメラで暗証番号も撮影か
店舗内には、一般的な土産店としては不自然なほど多くの監視カメラが設置されていました。特に、会計カウンターや決済端末の上部から、客の手元が見える位置にカメラが集中していたとされます。警察は、客が端末へ入力する暗証番号を撮影する目的があった可能性を調べています。
つまり、次の2種類の情報を別々の方法で取得していた疑いがあります。
- 改造キーボード:カードの磁気情報
- カウンター上のカメラ:暗証番号の入力映像
ただし、カメラ映像から実際に何人分の暗証番号が取得されたかは、公表されていません。
カード情報は米国の仲間へ送信
警察によると、中国人容疑者は、改造キーボードを中国から取り寄せたことを認めています。タイで取得したカード情報と暗証番号は、LINEなどを通じて米国にいる協力者へ送られ、現地で偽造カードが作られたとみられています。
偽造カードは、米国内で次の用途に使用されたとされています。
- 電子機器の購入
- 高級ブランド品の購入
- ATMからの現金引き出し
- 購入商品の換金
得られた利益は、ネットワークの関係者間で分配されていたと警察は説明しています。現段階では、米国側の協力者の人数や身元、逮捕の有無は公表されていません。
タイの大手メディアおよび現地メディアの報道をもとにまとめています。
当初はチェンマイの約900人から捜査
初期段階では、中国当局が把握した被害者のうち、約900人がチェンマイの2店舗を利用していたとみられていました。その後、バンコク・ヤワラートの店舗でも同様の装置が使われていたことが判明し、確認された被害者が1,200人以上に増えました。
警察は、まだ中国当局へ被害を届けていない人がいる可能性があり、実際の被害者数はさらに多いとみています。
7月22日に6か所を一斉捜索
警察は2026年7月22日、店舗と関係者の住居など計6か所を捜索しました。対象は次の場所です。
- チェンマイのドライフルーツ店2店舗
- バンコク・ヤワラートの店舗1か所
- チェンマイ市内の住宅
- バンコク・ラートプラオ48付近のアパート
- チョンブリー県バーンラムン郡の住宅
捜索には経済犯罪抑制部門のほか、チェンマイの警察や入国管理当局も参加しました。事件の内容は7月27日にCIBが発表し、報道機関は7月28日に報じています。
押収された機器
警察が公表した主な押収品は次のとおりです。
- 磁気ストライプ読み取り装置を内蔵したキーボード:11台
- EDCカード決済端末:3台
- コンピューター:5台
- 携帯電話:6台
- IP監視カメラ:18台
- 録画用サーバー:3台
- このほか関連書類や電子機器など
押収したコンピューターや携帯電話については、カード情報の送信先、過去の通信記録、米国側との連絡、利益の送金経路などの解析が進められています。
立件された4人
警察が法的手続きを進めているのは、次の4人です。
- 中国国籍の男性:42歳
- タイ国籍者:33歳
- タイ国籍者:32歳
- タイ国籍者:32歳
中国人男性とタイ人3人は、店舗を共同で運営していたとされています。中国人男性は、装置を中国から注文し、盗んだ情報を米国の関係者へ送っていたとの警察の説明を認めたと報じられています。ただし、これは警察の捜査・供述段階であり、4人の有罪が裁判で確定したわけではありません。
どのような容疑が適用されたのか
4人には、電子カードを偽造・改変するための情報を取得する装置を共同で所持した疑いが適用されています。
タイ刑法第269条の2は、電子カードを偽造・改変するための装置や、偽造に必要な情報を取得する装置を製造・所持する行為を処罰対象としています。基本刑は懲役1年以上5年以下、罰金2万〜10万バーツです。さらに、クレジットカードやATMカードなど、決済・現金引き出しに使用するカードが関係する場合、第269条の7により刑が50%加重される仕組みです。最終的な適用罪名や量刑は、追加捜査と裁判所の判断によって決まります。
「スキミング」とは
スキミングとは、カードを本人が所持したままの状態で、磁気ストライプなどの情報を不正にコピーする犯罪です。カードそのものを盗まれなくても、コピーされた情報から偽造カードを作られたり、不正決済に使われたりする可能性があります。
今回の事件では、正規の会計と不正な読み取りを連続して行ったため、客から見れば通常のカード決済に見えやすい手口でした。
日本人にも影響するのか
今回、警察が確認した被害者は主にUnionPayカードを利用した中国人です。日本人の被害が確認されたとの発表はありません。
ただし、警察は、磁気ストライプを使うカードであれば、Visa、Mastercardなど他のブランドでも技術的に情報を読み取られる可能性があると注意を呼びかけています。特に、カードを通常の決済端末以外の機器へ通すよう求められた場合は警戒が必要です。
旅行者が注意するポイント
タイの店舗でカードを使用する際は、次の点を確認してください。
- カードを店員へ預けたまま、見えない場所へ持って行かせない
- 通常の決済端末以外へカードを通させない
- 「割引登録」などの理由で2回以上カードを通す店を警戒する
- 磁気ストライプによるスワイプより、ICチップまたはタッチ決済を選ぶ
- 暗証番号入力時は、空いている手で端末を覆う
- 利用直後に銀行アプリの通知と金額を確認する
- 海外利用通知を有効にする
CIBも、店側が複数の装置へカードを通そうとした場合は理由を確認し、可能であればICチップまたは非接触決済を選ぶよう勧めています。
該当店舗を利用した可能性がある場合
今回の3店舗でUnionPayカード、または磁気ストライプによるカード決済を行った記憶がある場合は、利用明細を確認してください。特に注意する取引は次のとおりです。
- 米国での身に覚えのない決済
- 電子機器店や高級ブランド店での購入
- 海外ATMからの現金引き出し
- 少額のテスト決済
- 同じ日に繰り返された決済
不審な取引がある場合は、カード発行会社へ連絡してカードを停止し、不正利用の申告とカード番号の変更を依頼する必要があります。暗証番号を入力した可能性がある人は、暗証番号も変更した方が安全です。
まとめ
今回の事件は、タイの土産店を舞台に、中国・タイ・米国にまたがる国際的なカードスキミング組織が摘発されたというものです。被害者は中国人観光客が中心で、日本人の被害は現時点で確認されていませんが、手口自体は磁気ストライプを使うカードであれば国籍を問わず狙われる可能性があります。捜査は米国側の関係者や中国側の装置供給元にも及んでおり、今後も続報が予想されます。
SNSなどでも度々見かけるカードの不正利用 こういったお土産のお店でも不正利用を疑う時代になりました。旅行者に難易度が高いキャッシュレス決済ですが、旅行者でも利用できる制度もありますので今度記事にしたいと思います。
在タイ日本人や駐在者の立場から見ると、観光地の土産店でのカード決済は、便利さゆえについ油断しがちな場面だと思います。「割引になる」という言葉に釣られて、店員の指示通りカードを何度も通してしまうことは、冷静に考えれば不自然な行為です。特にチェンマイやヤワラートのような観光客の多いエリアでは、現金やICチップ決済・タッチ決済を優先し、少しでも違和感のある会計手順には応じない姿勢が大切だと感じます。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 日本人も被害に遭う可能性がありますか?
今回確認された被害者は主にUnionPayカードを利用した中国人観光客で、日本人の被害は確認されていません。ただし、磁気ストライプを使うカードであれば、Visa、Mastercardなど他のブランドでも技術的に情報を読み取られる可能性があるとされています。
Q2. カードを2回通される場合、どう対応すればいいですか?
「割引のため」などの理由でカードを通常の決済端末以外の機器へ通すよう求められた場合は警戒してください。ICチップ決済やタッチ決済を選び、不自然な手順には応じないことをおすすめします。
Q3. 立件された4人はすでに有罪が確定したのですか?
いいえ。現時点では警察による捜査・立件の段階であり、裁判での有罪確定には至っていません。
出典・参考サイト
- Bangkok Post「Chinese shop owner skimmed compatriots’ credit cards, stole B30m」
- ASEAN NOW「Chinese Credit Card Skimming Gang Busted in Thailand」

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
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