「台湾は一つの中国」タイ・中国共同声明に台湾が抗議もアヌティン首相「政策に変更なし」
タイのアヌティン・チャーンウィーラクーン首相は2026年7月23日、中国訪問後に発表されたタイ・中国共同声明を巡り、タイの「一つの中国」政策に変更はないと改めて説明しました。この共同声明には台湾を中国領土の一部とする表現が盛り込まれており、台湾外交部は強い抗議と遺憾の意を表明しています。現時点で、タイ・台湾間の貿易やビザ、就労への具体的な影響は発表されていません。
発端はアヌティン首相の中国公式訪問
報道によると、アヌティン首相は2026年7月16日から20日まで中国を公式訪問しました。訪問中には、習近平国家主席への表敬、李強首相との会談、世界AI大会への出席などが行われています。
タイ政府は、中国との間で経済、貿易、AI、電気自動車、鉄道、安全保障、オンライン詐欺対策などの協力を強化する方針を示し、15件の協定・覚書に署名しました。今回の台湾を巡る問題は、こうした経済協力そのものではなく、訪問終了後に公表された共同声明の記述から生じています。
タイ・中国共同声明には何と書かれたのか
タイ政府広報局が公表した共同声明では、タイ側の立場について、次の内容が記されています。
- タイは「一つの中国」政策を揺るぎなく維持する
- 中華人民共和国政府を中国全体を代表する唯一の合法政府と認める
- 台湾を中国領土の不可分の一部と認識する
- 中国による平和的統一を支持する
- いかなる形の台湾独立も支持しない
- 中国の「一国二制度」政策を支持する
タイが中華人民共和国と正式な外交関係を持ち、「一つの中国」政策を採用していること自体は、従来から続く方針とされています。ただし今回は、「台湾は中国領土の不可分の一部」「平和的統一を支持」「一国二制度を支持」という、より踏み込んだ表現が共同声明に盛り込まれたことで、台湾側の反発を招きました。
台湾側の主張:「主権を持つ独立国家」
台湾外交部は2026年7月21日、タイ・中国共同声明について公式声明を発表しました。報道によると、台湾側は共同声明に書かれた台湾に関する主張を「誤った主張」と位置づけ、中国政府が二国間声明を使って台湾の主権を傷つける言説を広めていると非難しています。
また、タイ政府についても、事実を無視し、中国による台湾の国際的地位を弱める動きに追随したとして、失望と遺憾の意を表明しました。台湾外交部が示した立場は、次のとおりです。
- 中華民国台湾は主権を持つ独立した国である
- 台湾と中華人民共和国は互いに従属していない
- 中国が二国間共同声明を使い、台湾を中国の一部とする主張を広めることを容認しない
- タイと台湾の長期的な友好関係をタイ政府は大切にするべきである
台湾外交部はさらに、タイと台湾には緊密な商業・貿易関係と、活発な人的交流があると指摘し、タイ政府に対して、中国による台湾への圧力に継続的に協力しないよう求めています。
タイ側の説明:「以前から一貫している」
台湾側の抗議について記者から質問を受けたアヌティン首相は、2026年7月23日午前、首相府でタイの立場を説明しました。
報道によると、首相は、タイが以前から一貫して「一つの中国」政策を支持しており、今回新しく変更したものではないと述べています。また、台湾との様々な協力は「一つの中国」政策と矛盾しないとの考えを示し、タイは台湾との協力を妨げていないと説明しました。
記者から、タイが中国側へ傾いていると台湾に受け取られる可能性を問われると、首相は「タイの政策は一つの中国であり、どちらかへ傾いているという問題ではない」という趣旨で答えたと報じられています。さらに、台湾側の声明は台湾側の立場であり、タイ政府もそれを認識しているとしたうえで、今回の問題が両者の関係へ大きな影響を与えるとは考えていないとの認識を示しました。
アヌティン首相は、台湾側へ正式な説明書簡を送る必要があるかとの質問に対しても、タイの政策は明確であり、双方はすでに互いの立場を理解しているとの認識を示しています。7月23日の発言時点で、タイ政府が台湾側へ特別な説明文書や謝罪文を送るとの発表や、共同声明の台湾に関する部分を修正・撤回するとの発表は確認されていません。
タイの大手メディアおよび現地メディアの報道をもとにまとめています。
ビザ・貿易・就労への影響は?
報道陣からは、今回の外交的な対立により、台湾で働くタイ人労働者や、タイ国民に対する台湾のビザ免除措置へ影響が出る可能性についても質問が出ました。アヌティン首相は、タイの政策は明確だと繰り返し、旅行、就労、実務協力に関する変更は発表していません。
台湾側も、ビザ政策については平等と相互主義を基礎に判断すると説明し、タイと台湾の経済関係や人的交流が引き続き緊密であることを強調しています。
実際、台湾外交部領事事務局は今回の問題が起きる前の7月17日、タイ、ブルネイ、フィリピン国民を対象とする試験的なビザ免除措置を、1年間延長すると発表しています。現在発表されている内容では、タイ国籍者は2026年8月1日から2027年7月31日まで、条件を満たせば台湾へ最長14日間、ビザなしで入境できます。7月24日時点で、この延長措置を撤回・変更するとの公式発表は確認されていません。
したがって、現段階で「タイ人の台湾ビザ免除が取り消される」「台湾で働くタイ人が直ちに影響を受ける」と断定する根拠はありません。
現時点で確認されていないこと
- 台湾によるタイへの経済制裁
- タイ人への台湾ビザ免除の取り消し
- 台湾で働くタイ人の就労条件変更
- タイ・台湾間の航空便削減
- タイと台湾の貿易停止
- タイ政府による共同声明の撤回
これらについては、記事執筆時点で公式発表がないため、SNS上の推測だけで影響が確定したように理解をしない・伝えないことをご注意ください。
今回の問題を時系列で整理
- 7月16〜20日:アヌティン首相が中国を公式訪問
- 7月18日:習近平国家主席と会談
- 7月20日:李強首相との会談、15件の協定・覚書に署名、タイ・中国共同声明を発表
- 7月21日:台湾外交部が共同声明へ正式抗議
- 7月23日:アヌティン首相が「一つの中国政策は従来から変わらない」と説明
- 7月24日時点:旅行、ビザ、就労、貿易協力の変更は発表されていない
まとめ
今回の問題は、タイと台湾の関係が断絶したり、貿易や旅行が停止したりしたものではありません。タイ・中国共同声明に使われた台湾の主権と統一に関する表現をめぐり、台湾側が外交上の強い抗議を行い、タイ側がこれまでの方針に変更はないと説明した、という構図です。台湾側の主張とタイ側の説明のどちらが妥当かは、読者それぞれの判断に委ねられる部分だと思います。
在タイ日本人や駐在者の立場から見ると、今回の件がタイ在住の生活や日本人旅行者に直接影響する可能性は、現時点では限定的です。タイ国内の入国制度、ビザ、航空便、台湾便、台湾人旅行者に関する変更は発表されていません。ただし、タイは中国との経済・安全保障協力を強めており、AI、鉄道、防衛、犯罪対策、宇宙、エネルギーなど幅広い分野での協力拡大が今回の共同声明にも示されています。タイで事業を行う日本企業にとっては、中国企業の投資やEV・AI分野での競争、サプライチェーンの変化など、間接的な影響を注視しておく価値があるテーマだと感じます。
中国とタイの外交政策や報道から日本では報道されない中国の外交姿勢などが垣間見えたので今回の記事にまとめました。
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よくある質問(FAQ)
Q1. タイは新しく「一つの中国」政策を採用したのですか?
いいえ。タイは以前から中華人民共和国と正式な外交関係を持ち、「一つの中国」政策を採用しています。アヌティン首相も、今回の共同声明はこの従来方針を改めて示したものだと説明しています。
Q2. タイ人の台湾ビザ免除はなくなるのですか?
現時点ではそのような発表はありません。台湾外交部領事事務局は問題発生前の7月17日、タイ国民などを対象とするビザ免除措置を2027年7月31日まで延長すると発表しており、7月24日時点で撤回・変更の公式発表は確認されていません。
Q3. 今回の件は日本人の生活に影響しますか?
現時点で、タイ国内の入国制度、ビザ、航空便などに関する変更は発表されておらず、日本人居住者・旅行者への直接的な影響は限定的とみられます。
出典・参考サイト
- Taiwan News「Foreign ministry rejects China-Thailand statement on Taiwan」
- 中央社(Focus Taiwan)日本語版
- RTI(台湾国際放送)日本語版
- タイ政府広報局 共同声明発表内容
- 新華網(日本語版)

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
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