EVは洪水に強いのか? バンコクの洪水から見る浸水被害と実態 各社の対応について
バンコクを襲った大雨と洪水を受け、電気自動車(EV)の浸水被害と安全性に注目が集まっています。
「EVは水に弱いのでは」という声がSNSなどで広がる一方、2026年9月28日時点で、EVの大量故障や大規模な火災が発生したという確定的な報道は見受けられません。
一方で、浸水したEVには高電圧バッテリーや駆動系の損傷リスクがあり、各メーカーはすでに無料点検や修理費の割引といった支援策を打ち出しています。
タイの保険当局も、バッテリーの全損判定基準を明確化する動きを見せています。今回はバンコク在住者の視点から、EVの浸水被害の実態と各社の対応について整理します。
バンコク洪水でEVの浸水被害は本当にあったのか
報道によると、9月28日時点でタイ工業連盟(FTI)などから、今回の洪水によるEVの深刻な損傷が多数発生したという確定情報は出ていません。
多くの所有者が事前に車両を高い場所へ移動させたこともあり、現時点では「EV故障が急増した」というより、今後の浸水被害への警戒が高まっている段階といえます。
ただし、バンカピ区やフワイクワーン区など、車体の半分以上が水に浸かった地域では状況が異なります。長時間水に浸かった車両では、密閉構造のバッテリーであっても、アンダーカバーの傷やパッキンの隙間から浸水し、走行不能に陥る事例が報じられています。
EVは水に弱いのか?構造から見る実態
「吸気口がないから走れる」という錯覚
EVはガソリン車のようにマフラーやエアインテークから水を吸い込んでエンストするリスクがないため、水深20〜30cm程度の浅い冠水路ではガソリン車を横目に走行できる姿がSNS上でも話題になりました。この点だけを見ると「EVは洪水に強い」と感じるかもしれません。
本当のリスクは「長時間の水没」
現在のEVの高電圧バッテリーパックは、高い防水・防塵性能を前提に設計されており、道路にある程度の水が溜まった程度で即座に故障するわけではありません。問題になるのは、長時間の浸水によって車体底部やコネクターから水が侵入し、絶縁異常や腐食、電子部品の障害につながるケースです。
浸水直後は普通に動いたとしても、後になって異常が出る可能性がある点がEV特有の注意点です。そのため各メーカーは無料点検を実施し、保険当局もバッテリーの判定基準の整備を進めています。
牽引にも注意 フラットベッド車が必須
EVはモーター保護のため、車輪を回転させる通常のロープ牽引が原則禁止されています。車輪が回ることで高電圧が発生し、モーターを損傷する危険があるためです。今回の洪水では、4輪を完全に持ち上げるフラットベッド式レッカー車の要請が集中し、手配に数日を要する現場も見られたと報じられています。
保険業界の対応 タイ保険委員会(OIC)がバッテリー全損基準を明確化
タイの保険規制当局OIC(Office of Insurance Commission)は9月27日から28日にかけて保険業界を集め、洪水被害への緊急対応を協議しました。報道によると、EVの浸水被害については、車体本体だけでなく高電圧バッテリーの損傷を含めて、メーカーごとの基準に沿って全損(Total Loss)判定を行う方針が示されています。
1級保険(Class 1)は補償を拒否できない
OICは、自然災害による水没被害について、Class 1保険(1級保険)に加入している場合は保険会社が支払いを拒否できないことを改めて確認しています。
新車1年以内はバッテリー無料交換
登録から1年以内の新車EVが水没によりバッテリーの全損と判定された場合、オーナーの自己負担なしで100%新品交換することが義務付けられています。年数が経過するにつれて補償率は段階的に下がる規定です。EVのバッテリー交換費用は車両価格の30〜50%以上に達することもあるため、床下バッテリーが浸水・破損したケースの多くは修理不能(全損)扱いとなる可能性があります。
各メーカーの緊急支援策
洪水発生直後から、タイ国内でシェアを争う各メーカーが相次いで支援策を打ち出しています。割引率や対象期間はメーカー・車種・購入経路・保険利用の有無によって異なるため、「最大」「条件付き」という表現で捉えるのが安全です。
BYD・DENZA
正規販売元のRever Automotiveは、洪水被害を受けたBYD・DENZAの全モデルを対象に、無料の138項目点検を実施しています。報道によると、工賃・一般修理部品・薬品類・フロアカーペット・防音マットなどが最大30%割引となる一方、12Vバッテリー・高電圧バッテリー・駆動モーター・モーター制御装置・タイヤなどは割引対象外とされています。保険会社が修理費を負担する場合や、正規販売店以外での購入車両は対象外となる条件もあります。
GWM
GWM(ORA・HAVAL・TANKなど)は、洪水被害を受けた車両を対象に、工賃・部品代を最大30%割り引く支援策を実施しています。対象部品や保険利用車の扱いについては、販売店への確認が必要です。
ZEEKR
ZEEKRは全モデルを対象に、工賃・部品代を最大40%割り引く支援策を実施しています。ただし高電圧バッテリー・駆動モーター・DCコンバーターは対象外で、保険会社を通じて修理する場合はキャンペーン対象外となる条件があります。
MG
MGは24時間対応の緊急出動・レッカー手配サポートに加え、無料点検と最大30%の部品代割引を指定サービスセンターで実施しています。
その他メーカー
報道では、EV専業メーカーだけでなく、トヨタ・いすゞ・フォードなども洪水被害車両への点検・修理支援を展開しています。これらはEV専用の制度ではなく、ガソリン車やハイブリッド車を含む全般的な洪水被害支援です。
- BYD・DENZA:無料138項目点検、対象修理最大30%割引
- GWM:工賃・部品代最大30%割引
- ZEEKR:工賃・部品代最大40%割引(高電圧バッテリー等は対象外)
- MG:24時間緊急出動サポート、無料点検、部品代最大30%割引
- いすゞ:無料点検、工賃・部品代最大30%割引
- フォード:30項目無料点検、部品・潤滑油最大40%割引
旅行者・在住者へのポイント
EV・ガソリン車を問わず、車両が浸水した場合は次の点に注意が必要です。
- 電源を入れたり再始動したりしない(ショートや二次故障の危険があるため)
- 自宅などで充電しない
- 保険会社・レッカー会社・正規サービスセンターへ直接連絡する
- EVの場合は通常のロープ牽引ではなくフラットベッド車の手配を依頼する
- 加入している保険がClass 1(1級保険)かどうかを確認しておく
タイの大手メディアおよび現地メディアの報道をもとにまとめています。
まとめ
今回のバンコク洪水では、EVが特別に大量故障したという状況は確認されていません。一方で、浸水したEVは見た目に異常がなくても、高電圧システムやバッテリーに損傷が残る可能性があります。所有者は再始動や充電を避け、正規サービスセンターで点検を受けることが重要です。
ガソリン車・ハイブリッド車と比べてどうなのか
今回の調査を踏まえると、「EVだから特別に洪水に弱い」とは言えません。ガソリン車は、エンジン内部に水が侵入すると「ハイドロロック」という現象で内部部品が破損し、浸水直後にエンジンをかけただけで重大な故障につながることがあります。むしろ即座に壊れるリスクは、ガソリン車の方が高いともいえます。
ハイブリッド車は、エンジンに加えて高電圧バッテリーとモーターも搭載しているため、ガソリン車とEV両方のリスクを併せ持つ構造です。
EVは吸気口がなくエンストしにくい一方、リスクの現れ方が「即時」ではなく「遅発性」である点が特徴です。浸水直後は正常に動いても、後日絶縁不良やバッテリー劣化が判明することがあります。さらに故障がバッテリー本体に及ぶと、交換費用は車両価格の30〜50%以上に達することもあり、修理費という観点ではEVの方が負担が大きくなりやすいといえます。
つまり、「浸水直後の故障リスク」はガソリン車・ハイブリッド車の方が高く、「浸水後にじわじわと現れる損傷と、それにかかる修理コスト」はEVの方が大きいというのが、今回の洪水から見えてくる客観的な結論です。動力方式にかかわらず、深く・長時間浸水した車両には、自己判断で再始動せず専門点検を受けるという対応が共通して重要になります。
各メーカーの支援策は修理費の負担軽減に役立つ一方、高電圧バッテリーやモーターなど高額部品は割引対象外となるケースも多く、保険の全損判定の基準も今後さらに注目されそうです。
日本以上にEVの普及が進むバンコクの自動車事情。普及後におこった初めてとも言える洪水被害でEVの購入を検討していた人や興味を持っていた人も多くいたのではないでしょうか?また地下駐車場におけるリスクも考慮した上で車の所有を検討したいものです。
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FAQ
Q. バンコク洪水でEVが大量故障したのは本当ですか?
2026年9月28日時点で、大量故障や大規模な火災が発生したという確定的な報道は確認されていません。ただし浸水後の点検は推奨されています。
Q. 車が浸水したら、まず何をすればいいですか?
電源を入れたり再始動したりせず、保険会社やレッカー会社、正規サービスセンターに連絡してください。EVの場合はフラットベッド車の手配が必要です。
Q. EVのバッテリーが浸水したら必ず全損になりますか?
必ずではありません。損傷の程度によりますが、高電圧バッテリー内部まで浸水した場合は、修理費用と車両価値を比較して全損(Total Loss)扱いになる可能性があります。
Q. 新車のEVならバッテリー交換は無料ですか?
登録から1年以内の新車EVが水没によりバッテリー全損と判定された場合、自己負担なしで100%新品交換することが義務付けられています。年数が経つと補償率は下がります。
Q. どのメーカーが洪水支援策を出していますか?
BYD・DENZA、GWM、ZEEKR、MGなどのEVメーカーに加え、トヨタ・いすゞ・フォードなども洪水被害車両向けの点検・修理支援を展開しています。
出典・参考サイト
- Bangkok Biz News「EV浸水被害に関する報道」
- Rever Automotive公式発表「洪水被害支援キャンペーンのお知らせ」
- Thansettakij「GWM・ZEEKRなど各社の洪水支援策」
- Matichon「浸水車の対処法に関する記事」
著者プロフィール

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
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