MENU

タイの経済成長は「K字型」の二極化 輸出増でも日本企業が苦戦する理由

タイのK字型経済を表すイメージ、AI・データセンターの成長と中小企業の苦境を対比
keita satou

タイの2026年の経済成長率見通しは上方修正されましたが、その裏では「K字型経済」と呼ばれる二極化が鮮明になっています。AI・データセンターなどの新興分野が急成長する一方、自動車や石油関連などの従来型製造業は苦戦しており、日本企業の生産低下も指摘されています。

本記事では、タイ民間三団体合同委員会(JSCCIB)の発表内容をもとに、なぜ輸出やGDPが伸びているのに「実感なき成長」と言われるのか、日本企業にとって何を意味するのかを整理してお伝えします。

GDP見通しは上方修正

報道によると、タイ民間三団体合同委員会(JSCCIB)は2026年9月、今年のタイ経済見通しを次のように上方修正しました。

  • GDP成長率:1.6〜2.0%→2.1〜2.5%
  • 輸出:8〜10%増→12〜16%増
  • インフレ率:2.5〜3.0%(変更なし)

数字だけを見ると、タイ経済は好調に見えます。しかしJSCCIBは、「GDPだけを見ていては、現在のタイ経済を正しく理解できない」と警告しています。その理由が「K字型経済(K-Shaped Economy)」です。

「K字型経済」とは

アルファベットの「K」を思い浮かべると分かりやすい概念です。ある地点から、右上に伸びていく産業と、右下に落ちていく産業に分かれている状態を指します。

つまり、国全体のGDPはプラスであっても、すべての企業が成長しているわけではなく、伸びている企業と衰退している企業の差が拡大しているということです。報道によると、JSCCIBは2026年6月ごろから、輸出・生産・企業決算を業種、企業規模、企業の国籍別に分解して分析し、はっきりした二極化を確認したとされています。

Kの「上側」:AI・デジタル・半導体

報道によると、現在大きく伸びているのは、デジタル、AI、コンピューター、半導体、スマートエレクトロニクスといった新興分野です。JSCCIBは、この成長分野の企業には中国、米国、シンガポールに関連する企業が多いと指摘しています。

つまり、タイへ巨額の外国投資が入っていても、必ずしも既存のタイ企業や、長年タイに進出してきた外国企業全体が恩恵を受けているわけではないということです。

Kの「下側」:自動車・石油・建材など、日本企業への言及も

一方、苦戦しているのは、自動車、石油関連、建設資材など、タイ経済を長年支えてきた従来型産業です。特に中小企業(SME)は、海外からの安価な商品の流入により、激しい価格競争にさらされているとされています。

ここで日本企業にとって重要な指摘があります。JSCCIBの発表によると、過去5年間についてK字型経済の下側に属する対象産業を分析した結果、タイ資本の中小企業では生産が平均8%減少した一方、外国系企業では最大19%減少し、特に日本企業の弱さが目立つとされています。

ここは正確に理解しておく必要があります。これは「タイの日系企業全体の生産が19%減った」という意味ではありません。正確には「K字型経済の下側に位置する対象産業における外国系事業者の生産低下が最大19%に達し、その中でも日本企業の弱さが目立つ」というJSCCIBの分析です。とはいえ、日本企業が公式資料で名指しされている点は重要な事実です。

なぜ日本企業がKの「下側」に入りやすいのか

日本企業がタイで長年強かった分野は、自動車、自動車部品、機械、化学、素材、電子部品といった製造業です。これは現在K字型経済で苦戦している「従来型製造業」とかなり重なります。

一方、現在新規投資が急増しているAI、クラウド、データセンター、半導体、高性能電子機器といった分野では、中国、米国、シンガポール系企業が存在感を強めているとされています。タイへの外国投資の構造そのものが、日本中心だった従来型製造業から、中国・米国・シンガポールも強いデジタル・AI投資へシフトしている可能性があります。

「輸出12〜16%増」なのになぜGDPは2%台なのか

報道によると、JSCCIBは興味深い比較をしています。以前のタイでは、輸出が約14%増えると投資も約10%増え、GDPが約6〜7%増えるという関係が見られました。ところが現在は、輸出が12〜16%増える見通しであるにもかかわらず、GDPは2.1〜2.5%程度にとどまっています。

つまり、「輸出が増えている割に、国内経済が伸びていない」という状態です。

原因は「Import Content(輸入含有率)」

JSCCIBが問題視しているのが「Import Content」という考え方です。これは、輸出品を作るために海外から輸入する部品・原材料の割合を指します。

例えば、タイで100万バーツの商品を作って輸出したとしても、原材料や半導体、機械など70万バーツ分を海外から輸入していれば、タイ国内に残る経済価値は30万バーツ程度にとどまります。これが「国内に取り込める付加価値(Domestic Value Capture)」です。

報道によると、現在のタイは輸出額が大きく増えている一方、輸入部品・原材料への依存が高まり、国内に残る付加価値が以前より少なくなっているとJSCCIBは分析しています。「成長している。でも以前ほど国内でお金が回らない」という状態です。

データセンター投資も「額が大きい=タイが儲かる」ではない

その象徴的な例として挙げられているのがデータセンターです。報道によると、JSCCIBは100MW規模のデータセンター投資が600億バーツ超になるとしています。非常に大きな投資額です。

しかし、海外企業が資金を投入し、建物を建設し、海外製サーバーを輸入してデータセンターが完成するだけであれば、タイ国内への波及効果は限定的です。さらにデータセンターは、巨大な投資額の割には工場ほど大量の雇用を生まないとされています。

そのためJSCCIBは、「データセンターそのものではなく、その周囲に産業を作るべきだ」と主張し、PCB、半導体・電子部品、クリーンエネルギー、電力・水インフラ、AI人材育成などをタイ国内へ広げる必要があるとしています。この目的のため、JSCCIBはデータセンター専門のワーキンググループを新たに設置したとされています。

「投資額」から「産業化」へ

これまでは、Google、Microsoft、AWSといった海外企業がタイへ投資するという投資額そのものがニュースになってきました。しかしタイ財界は、投資額だけでは不十分だという段階に入っているとしています。

必要なのは、外国企業がタイへ投資し、タイ企業へ発注し、タイ国内で部品を生産し、タイ人を雇用し、技術移転が行われ、現地企業が成長するという「垂直統合(Vertical Integration)」です。これができなければ、投資額やGDPは伸びても、タイ人の所得が増えないという状況になりかねません。

「Reinvent Thailand」の7つの重点産業

報道によると、JSCCIBが現在、タイ経済再構築の重点分野としているのは次の7産業です。

  • スマートエレクトロニクス
  • 観光
  • 農業・食品加工
  • 医療・ウェルネス
  • 小売・貿易
  • 自動車
  • クリエイティブエコノミー

これら7産業には約27万3,000社、1,190万人の雇用があり、全企業売上高の約66%を占めるとされています。タイ政府・財界としても「AI企業だけが成長すればいい」とは考えておらず、既存産業をAI・デジタルで再構築するという方針です。

別の懸念:原油価格上昇とディーゼル輸出制限(別論点)

今回の資料では、K字型経済とは別の論点として、エネルギー分野の課題も指摘されています。報道によると、中東情勢の緊張により、原油価格は7月の約84ドル/バレルから、9月初めには約95ドル/バレルまで上昇したとされています。

さらに、タイ政府によるディーゼル輸出制限の影響で、国内に石油製品の在庫が積み上がり、製油所が精製量を減らさざるを得ない状況になっているとされています。石油精製の過程で生まれる副産物(ナフサ、ベンゼン、トルエン、パラキシレンなど)は、石油化学、プラスチック、ゴム、自動車、包装材など幅広い産業の原料となるため、製油所の生産減少がこれらの産業へ波及するリスクが指摘されています。JSCCIBは政府に対し、石油製品輸出の規制緩和を求めているとされています。

日本企業・在住者へのポイント

今回の分析は、タイに長年進出してきた日系製造業にとって、無視できない内容です。自動車・自動車部品・機械・化学といった従来型製造業がK字型経済の「下側」に位置づけられている一方、AI・データセンター関連の新規投資では中国・米国・シンガポール系企業の存在感が強まっているとされています。

ただし、これはタイにおける日本企業の存在感がすべて低下しているという意味ではありません。JSCCIB自身も、既存産業をAI・デジタルで再構築する「Reinvent Thailand」の方針を掲げており、自動車も含めた7つの重点産業への投資・技術移転を進める方針です。今後、日系企業がこうした産業再構築の流れにどう関わっていくかが、注目されるポイントといえます。

タイの大手経済メディアおよびJSCCIB(民間三団体合同委員会)の発表をもとにまとめています。

まとめ

今回の話題は、タイの2026年GDP成長率見通しが上方修正された一方で、「K字型経済」と呼ばれる二極化が鮮明になっているというものです。AI・デジタル・半導体などの新興分野が急成長する一方、自動車・石油関連・建材などの従来型製造業は苦戦しており、その中でも日本企業の生産低下が目立つとJSCCIBは指摘しています。

輸出が増えてもGDPが比例して伸びない背景には、「Import Content(輸入含有率)」の上昇があり、データセンターなど巨大投資も、周辺産業への波及効果がなければタイ国内に十分な付加価値を残せません。「GDPを何%成長させるか」ではなく、「その成長で誰が儲かり、タイ国内にいくら残るか」が今後の焦点になりそうです。

K字型成長曲線というのは私ははじめて目にしました。過去には製造におけるコア部品の製造がすべての生産の肝なので日本は安泰だという言葉を耳にしたこともありましたが、さらに生産の脳みそ部分であるAIやデータセンターやロボット産業が生産の肝になりつつあるという現実に驚きました。

タイムラインバンコクでは、旅行者や在住者に役立つ最新情報を配信していますのでシェアやブックマークをお願いします。またSNSのフォローもよろしくお願いします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本企業の生産は本当に19%減少したのですか?

「日系企業全体が19%減少した」という意味ではありません。K字型経済の下側に位置する対象産業における外国系企業の生産低下が最大19%に達し、その中でも日本企業の弱さが目立つ、というJSCCIBの分析です。

Q2. タイ経済は好調なのですか、不調なのですか?

GDPや輸出の見通しは上方修正されており、数字上は好調に見えます。ただし、成長している産業と苦戦している産業の差が大きく、一律に「好調」とは言い切れない状況だとJSCCIBは指摘しています。

Q3. なぜ輸出が増えているのにGDPがあまり伸びないのですか?

輸出品を作るための輸入部品・原材料の割合(Import Content)が高まっており、タイ国内に残る付加価値が以前より少なくなっているためとされています。

Q4. データセンター投資はタイ経済にとって良いことではないのですか?

投資額自体は大きいものの、周辺産業(部品供給、電力・水インフラ、人材育成等)への波及効果を伴わなければ、タイ国内に十分な経済効果が残らないとJSCCIBは指摘しています。

出典・参考サイト

  • Thansettakij:K字型経済に関するコラム記事
  • JSCCIB(民間三団体合同委員会):K字型経済・Reinvent Thailandに関する公式発表

タイムラインバンコク編集部keitasatouのアイコン

Keita Satou:バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。

関連記事

タイ 最新世論調査 国民の45%が「政治は悪化した」と次期首相に求めるのは「経済対策」

about me
Keita Satou
Keita Satou
タイ在住ライター
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
記事URLをコピーしました