タイの貿易赤字、9月は約2,094億バーツ(約1兆円)に拡大 12カ月連続の赤字
タイ商務省は2026年10月26日、2026年9月の貿易収支を発表しました。輸出額は過去最高を記録したものの、輸入の急増がそれを大きく上回り、貿易赤字は約58.6億ドル(約2,094億バーツ、日本円換算で約1兆円)となりました。これで12カ月連続の貿易赤字となっています。
この記事では、輸出が好調なのになぜ赤字が拡大しているのか、その背景とタイ在住の日本人への影響を解説します。
9月の貿易統計
- 輸出額:384億3,890万ドル(前年同月比+24.0%、過去最高を更新)
- 輸入額:442億9,560万ドル(前年同月比+50.4%、単月として過去最高)
- 貿易収支:約58.6億ドルの赤字(約2,094億バーツ、日本円換算で約1兆円)
輸出は27カ月連続でプラス成長となり、数字だけを見ればタイ経済にとって良いニュースです。しかし、輸入の増加率は輸出の2倍以上となり、貿易赤字は12カ月連続となりました。2026年1〜9月の累計でも、輸出が19.6%増加したのに対し、輸入は37.8%増加しており、単月だけの現象ではないことが分かります。
輸出が過去最高なのに赤字が拡大した理由
報道によると、最大の要因は世界的なAI・データセンター投資の拡大に伴い、タイでコンピューターや半導体関連部品、電子機器、製造用設備の輸入が急増していることです。特に輸入が増えた品目は次のとおりです。
- コンピューター・関連機器:前年同月比+317.1%
- 電気機械・関連設備:前年同月比+82.4%
- 電子回路基板:前年同月比+68.5%
原材料・中間財と資本財・設備を合わせると、輸入全体の75.2%に達します。つまり、タイ人が海外製の日用品を大量購入しているために赤字になったという単純な話ではなく、海外から生産設備や部品を輸入し、タイ国内で加工・組み立てた製品を再び海外へ輸出するという産業構造が大きく関係しています。設備投資が先行して一時的に貿易赤字が膨らむこと自体は、必ずしも悪い現象ではありませんが、今回の輸入増加すべてが将来の輸出増加につながると保証されているわけでもありません。
タイの輸出を支えるAI・電子機器関連
9月の主な輸出品の伸び率は次のとおりです。
- 映像・音響機器および部品:前年同月比+1,302.6%
- 通信関連機器の一部:前年同月比+214.8%
- 電話機・関連部品:前年同月比+117.5%
- コンピューター・関連部品:前年同月比+59.4%
- 電子回路基板:前年同月比+45.9%
+1,302.6%という数字は非常に大きいですが、前年の輸出額が小さかったことによる反動の可能性もあり、この伸び率だけでタイ最大の輸出産業になったと判断することはできません。世界的なデータセンター建設やAI投資の拡大がタイの電子機器関連工場への需要を高めている一方、今回の統計はAI専用品だけを集計したものではなく、幅広い電子機器の輸出が含まれている点に注意が必要です。
国・地域別の貿易収支 中国には赤字、米国には黒字
貿易相手国による違いも今回の特徴です。9月単月では、中国との貿易収支は約64.6億ドルの赤字、米国との貿易収支は約71.8億ドルの黒字でした。中国に対する赤字はタイ全体の貿易赤字よりも大きくなっていますが、米国などとの貿易黒字が一部を相殺しています。1〜9月の累計では、中国に対する赤字は約472.4億ドル、米国に対する黒字は約524.9億ドルに達しています。
これは、タイが海外から部品・設備を調達し、製造拠点として別の市場へ製品を輸出するという構造を考えるうえで重要な数字ですが、この国別収支だけでは、どの国から輸入した部品が最終的にどの国向けの商品に使われたかまでは特定できません。
日本との貿易はどうなっている?
日本人にとって注目したいのは、タイから日本への輸出も好調なことです。タイ商務省によると、2026年9月の日本向け輸出は前年同月比19.0%増加し、1〜9月の累計でも15.3%増加しています。日本向けで伸びた主な製品には、自動車・関連部品、宝石・宝飾品、プラスチック樹脂などがあり、加工鶏肉の輸出も好調で、日本は主要市場の一つです。
日本との貿易収支(2026年1~8月)
- タイから日本への輸出:約179億3,749万ドル
- 日本からタイへの輸入:約210億2,385万ドル
- タイ側の貿易収支:約30億8,636万ドル(約4,587億円)の赤字
タイ国内の日系製造業にとって、電子部品や製造装置、物流などの需要拡大は事業機会となる可能性がある一方、原材料やエネルギーを海外から調達する企業にとっては、輸入コストの上昇が利益を圧迫するおそれがあります。
貿易赤字はタイ経済にとって危険なのか
タイ商務省の調査では、回答者の47.8%が今回の貿易赤字は「許容できる」と考えています。理由は、輸入が投資や輸出用製品の生産を支えているためです。プラスに評価できる点と懸念される点を整理すると、次のようになります。
- プラス面:輸出額が過去最高を更新、AI関連の産業投資が輸出入双方を押し上げ、米国・日本・EUなど主要市場への輸出が増加
- 懸念点:貿易赤字が12カ月連続、エネルギー・電子部品の海外依存、輸入価格上昇による企業コスト増、米国の通商政策や世界的なAI投資減速の影響を受けやすい
貿易赤字が増えたからといって、タイ経済全体が同額の赤字になっているわけではありません。貿易収支は商品の輸出入の差額であり、観光収入や海外からのサービス収入、投資所得などは別の項目です。また、貿易赤字だけでバーツが必ず下落するとも言えず、為替相場には金利や観光収入、資本移動なども影響します。
旅行者・在住者へのポイント
貿易赤字の拡大が続くと、バーツ安やインフレ、金利上昇の圧力につながる可能性があります。タイ在住の日本人にとっては、次のような点に注意が必要です。
- バーツ安が進んだ場合、海外製品・輸入食品や海外旅行費用が上昇する可能性がある
- 食品、電子機器、家電、自動車、燃料など輸入品の価格上昇がインフレにつながる可能性がある
- 金利が上昇した場合、ローンの返済負担や企業の資金調達コストが増える可能性がある
- 日本へ送金する際の為替リスクにも注意する
まとめ
今回のニュースを「タイ経済が危機に陥っている」とだけ捉えるのは適切ではありません。タイの輸出産業がAI需要で拡大している一方、その成長に必要な設備や部品の輸入も増えており、輸入額が輸出額を大きく上回ったことが今回の貿易赤字拡大の核心です。タイ商務省はAI関連の電子機器需要が引き続き好調で、2026年10〜12月も輸出拡大が続くと予想していますが、2027年は成長が鈍化するとの見通しも報じられています。
製造業中心だったタイの経済がデジタル、AI、コンピューター、半導体、スマートエレクトロニクスといった新興分野への本格的な舵をきった様子になっている今回の貿易収支です。従来の自動車、自動車部品、機械、化学、素材、電子部品といった製造業が下火になっており、産業の結びつきが強い日本にもなにかしらの影響がでるかもしれません。
タイの大手メディアの報道をもとにまとめています。
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FAQ
Q1. なぜ輸出が過去最高なのに貿易赤字が拡大したのですか?
AI・データセンター投資の拡大に伴い、コンピューターや半導体関連部品、製造設備の輸入が輸出の伸びを大きく上回るペースで増加したためです。輸入の増加率は輸出の2倍以上でした。
Q2. 貿易赤字の拡大はタイ経済にとって危険なのですか?
一概には言えません。輸入の多くは輸出産業を支える部品・設備であり、タイ商務省の調査でも回答者の47.8%が「許容できる」と考えています。一方で、12カ月連続の赤字やエネルギー・部品の海外依存といった懸念点もあります。
Q3. 日本との貿易はどうなっていますか?
2026年9月の日本向け輸出は前年同月比19.0%増加し、好調です。自動車・関連部品、宝石・宝飾品、プラスチック樹脂、加工鶏肉などが伸びています。
Q4. 在住者の生活にはどんな影響がありますか?
貿易赤字の拡大が続くと、バーツ安やインフレ、金利上昇の圧力につながる可能性があります。輸入食品や家電、燃料の価格上昇、ローン金利の上昇などに注意が必要です。
出典・参考サイト
- タイ商務省公式(2026年10月26日)
- Thai PBS(2026年10月26日)
- Matichon(2026年10月26日)
- THE STANDARD(2026年10月26日)
- Isranews(2026年10月26日)

著者:Keita Satou
バンコク在住10年以上。旅行ライセンスを持つタイ法人に勤務する傍ら、ライターとしても活動。タイ在住日本人向けメディアとタイ人向けメディアを運営し、日本のテレビ・各種メディア向けに現地情報も提供している。Facebook(フォロワー約1,900人)をはじめ、複数のSNSで合計8万人以上のフォロワーを抱える。職業柄、各業界のタイの裏話や現場の実情に触れる機会も多い。
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